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第28話

しおりが呆然とした顔をしているのを見て、今井が説明した。

「ご主人は、睡眠不足だと胃痛を起こしやすくなるんです。胃が痛む時は、機嫌が悪くなるんです」

「......」しおりは内心でため息をついた。時差ボケと胃痛に何の関係があるのか。それとも、今井は賢也が今朝自分に怒鳴った理由を説明しているつもりなのか?

それが彼の愛人への気遣いであれ、単なる胃痛であれ、賢也は離婚に同意した以上、もう後戻りはできないはずだ。

しおりはドアを押し開けた。目に飛び込んできたのは、広々としたリビング。片方には付き添いの家族が休むための部屋があり、まるで高級ホテルのような設備だった。もう片方は千代の病室になっている。

「ここ数日、プロジェクトの交渉が難航していて、ご主人はほとんど休んでいないんです。昨日も飛行機に乗る直前まで会議でした。彼だけでなく、私もこの数日徹夜で肩が痛くて......」今井は首を回し、肩を大げさに動かした。

その言葉が意味するものはあまりに明白だった。

しおりは、これはあくまで千代のお見舞いであって、賢也に媚びるために来たわけではない。

「この病院にはリハビリ科がありますよ。プロのマッサージを受けさせることができます。

ご存知の通り、ご主人は誰かに触れられるのを嫌がるんです」

結婚当初、しおりは賢也に夢中で、彼のために料理を作り、彼が帰ってくるのを待ち、食事の後は覚えたばかりのマッサージを施していた。

高級刺繍を手がける彼女の手は、油でやけどをし、マッサージで関節が痛むほどだった。それでも、彼のためなら何でもできた。だが、賢也はそんな努力に感謝するどころか、しおりが自分を誘惑していると思っていたのだ。

それからしおりは彼にマッサージをしなくなり、賢也も家に帰ることが少なくなった。今こうして言われるのは、単なる侮辱にしか感じられなかった。

「今井さん、私はお義母さんのお見舞いに来たんです」

「医者は、患者にできるだけ楽しい気分で過ごしてもらうことを勧めています」今井は病室のドアを開け、笑顔で言った。「奥様が来ました。社長様、奥様が社長様を労わり、マッサージをしたいと言ってます」

そんなこと、一言も言ってないけど?

「気にしないで!若いうちに徹夜するくらいで死にはしないんだから」千代は口ではそう言っていたが、賢也が入ってきた時から、その疲れ切
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