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第12話

ユリカのスキャンダルが広まり、彼女が否定しないことで噂は事実として扱われるようになっていた。

光瑠が急いでお金を手に入れたがるのも、しおりが捨てられて利用価値がなくなるのを恐れてのことだろう。

世貿商業ビルには各業界のエリートが集まっている。もちろん優秀な弁護士もいる。しおりは仕事に向かう前に、知り合いの弁護士を訪ねて相談した。

「財産を半分に分けるとなると、かなり難しいですね......」弁護士の山田は、賢也の弁護団と対峙することを考えただけで、冷や汗が流れた。

「もし私が少し譲歩したらどうですか?」しおりは最初から財産が欲しいわけではなかった。ただ、賢也を悔しがらせたかっただけだ。

山田は少し考え込んでから言った。「問題は、高橋さんが離婚に同意するかどうかです。もし彼が拒否すれば、裁判は長引くでしょう。彼に過失がある証拠を提示できない限り、法廷は基本的に和解を勧めるものです」

しおりはバッグのストラップを握りしめた。賢也はユリカのために色々とやっているのに、どうして正式に彼女を妻にしないのだろう?

しおりと賢也の結婚は誰にも知られていない。もし裁判沙汰になれば、ユリカはスキャンダルの渦中に追い込まれ、世間の嘲笑を浴びることになる。だからこそ、賢也は離婚を拒んでいるのかもしれない。

「では、こうしましょう」しおりは決心を固めた。「明日、彼に離婚協議書を作らせてください。それをあたかも彼が提案したように見せかけて、財産の分割はどうでも構いません。とにかくこの話が静かに進み、彼女の名誉に影響を与えないようにします」

山田は迅速に動き、その翌日には賢也にこの話が伝わった。

その日、高橋グループ全体に重苦しい空気が立ち込め、幹部たちはピリピリとした緊張感の中にいた。秘書課も静まり返り、息をひそめるように仕事をしていた。

今井がコーヒーを運んできたが、オフィスはタバコの煙で覆われており、思わず火災報知器が鳴りそうなほどだった。入社以来、今井が賢也をこんな状態で見たのはたった一度だけだった。

十分後、しおりは今井からメッセージを受け取った。

どうやら、健次がしおりに薬を買わせる際には、毎回賢也に効果を確認していたらしい。表向きは親族を気遣う素振りだが、裏ではしおりと賢也の夫婦関係を探っていたのだ。

今井は、この状況にどう対処するか尋ねてきた。

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