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第13話

今、賢也から「荷物をまとめてくれ」と頼まれるなんて、まるでこれまでの冷たい態度が嘘のようだった。その優しい口調は、ここ数日間で一番穏やかなものだった。しおりの胸には、じんわりとした寂しさが広がった。

電話口でしおりは沈黙し、賢也も何も言わない。二人はお互いスマホを握ったまま、言葉を失った。

最近ネットで流行している言葉がふと思い浮かんだ。「旦那が毎月200万円くれるけど、家に帰ってこないの、どう思う?」

その質問への一番人気のコメントはこうだった。「一秒でも迷うなら、それはお金に対する無礼だよね」

このロジックでいくと、賢也は最高の候補者だった。彼はしおりの支出に制限をかけないどころか、豪邸に住まわせ、車も提供し、使用人まで雇っていた。しかも、彼自身がイケメンで仕事もできる。立場の違いはあれど、真田家が求めるリソースも十分に提供してくれていた。

世間の稼ぎが少なくて、しかも面倒ばかり持ち込む、見た目もイマイチな男たちに比べれば、賢也はかなり優れたパートナーだった。

光瑠が「賢也は一途だ」と言っていたが、確かに彼はずっとユリカ一筋だ。だが、そのマブダチである真島明良ときたら、彼のガールフレンドはまるで講座を丸々1つ開けそうなくらい多い。

もし、しおりが「寛大な心」を持っていたら、この結婚生活も何とか続けられたのかもしれない。

だが、その時、電話の向こうから聞こえてきた女性の声が、しおりの思考を一瞬で遮った。

「賢也、お風呂上がったよ」

しおりは一気に目が覚めた。

なんて馬鹿だったんだろう......!

自分で自分を言い聞かせて、妥協しようとしていたなんて。なぜ、こんな選択肢しかないような考え方をしていたんだろう?

三本脚のカエルは滅多にいないけど、二本脚の男なんて山ほどいる。

「じゃあ、そういうことで」しおりは冷たい声で電話を切った。

その瞬間、真っ赤なラン○○ギーニが賢也の会社の地下駐車場へと滑り込んでいった。

突然のしおりの態度の変化に、賢也は苛立ち始めた。彼の顔は一瞬にして冷たく険しいものになった。

「わざとコーヒーをこぼしたわけじゃないの......」ユリカは申し訳なさそうにぬいぐるみをテーブルに置いた。彼女は少し困惑した表情で言った。「ねえ、いつからこういうのが好きになったの?」

賢也はそのぬいぐるみを引き出しにしまい、椅
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