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第19話

「怪我させちゃった?」しおりはすぐに背伸びして彼を確認しようとした。

「いや、大丈夫。ただ、運動不足でね。ちょっと胸を広げる運動をしたら、腕が筋肉痛になっちゃったんだ」男は腕を動かしながら、しおりを見つめて微笑んだ。「君、本当に勇敢だね。子供の頃から、こうやって困ってる人を助けてたの?」

しおりは普段、見知らぬ人と長く話すのを好まなかったが、彼の謙虚で柔らかい声は、不思議と抵抗感を抱かせなかった。

「一度、道端でバッグを奪われたことがあるの。バッグには試験の受験票が入っていてね。弟が車椅子で追いかけて、危うく車に轢かれるところだった。それ以来、こういうのを見ると放っておけなくなったの」

「君の弟も勇敢なんだね」篠崎悠真は笑みを浮かべた。「普通なら、そんな経験をしたらトラウマになってもおかしくないのに、君はそれを乗り越えて、勇気に変えたんだ。本当にすごいよ」

彼はしおりだけでなく、弟の颯太も褒めてくれた。その温かい言葉に、しおりの心は少し晴れやかになった。

しおりが何か言おうとした時、絹子から電話がかかってきた。彼女は「あのガキをこっぴどく叱って追い出したから、早く戻ってきて」と言ってきた。

「じゃあ、またね」しおりは軽く会釈して、その場を去った。

悠真はしおりの後ろ姿を静かに見つめ、口元の笑みが一層深くなった。

彼がジムに戻ると、明良がトレーナーに鍛えられていた。息を切らしながらスクワットをしている彼は、ふぅふぅと大きな息を吐いていた。

「買ってきてくれるはずの水は?本当に俺を渇き死にさせて、俺のポジションを奪うつもりか?」

悠真は彼の前にあるマシンに座り、体を反らしながら答えた。「君の死は、きっと歴史的な意味を持つよ」

「......」明良は息が詰まったようにマットに座り込んだ。「なんでそんなにニヤけてるんだよ」

悠真は控えめで穏やかな性格だが、家族の事情もあり、同世代よりも落ち着いていた。水を買いに行ったのに帰ってきた時には、口元に笑みを浮かべたままだった。まるで何かおかしなことでもあったように。

「外でいいことをしてきたんだ」

「お前が?」

「うん。あるおばさんの息子を泥棒と間違えて、半分追いかけてしまったんだ。それで、ある女の子に泥棒扱いされて止められたんだ」

明良は汗を拭きながら笑った。「お前、それ心を盗んだってやつじゃな
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