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第17話

しおりは淡々と返事をし、自分のデスクに戻った。

ちょうど仕事を始めようとしたところに、絹子がお茶を持ってやってきた。

「遠藤先生が君を呼んでるよ。ついでにこのお茶も持っていって」

「......はい」

「ちょうどいいところに来たね」遠藤は笑顔でしおりを招き入れた。「こちらは白石さん。例の監督の新作で主演を務める女優さんだ。今、代役の話をしているんだ」

ユリカは病み上がりらしく、シンプルな白いワンピースを身にまとい、Sの文字がダイヤモンドで飾られた白いキャップをかぶっていた。

彼女が手を伸ばしてお茶を受け取ろうとした瞬間、しおりの姿に気づき、動作がぎこちなくなった。

「遠藤先生、真田さんが私の代役を引き受けたくないなら、業界で優れた刺繍師を選んでくださいよ。こんな、ただのお茶汲みの人で私を誤魔化さないでください」

遠藤の顔が一瞬強張り、しおりの反応を伺った。だが、しおりは至って冷静だった。

「あの映画は架空の歴史を描いているけれど、衣装はすべて現実に忠実だ。真田さんが修復した刺繍礼服を見たことがあるけど、その上に刺繍された鳳は生きているかのようで、豪華絢爛だった。刺繍の手法を見ただけで、彼女が一流の技術者だと分かるよ。だけど、彼女は控えめで、たくさんの人脈を使っても彼女に会えなかったんだ」

ユリカは冷ややかに言った。「私の代役を務めさせるのは少し可哀想かもしれないけど、もっと良い仕事を紹介してあげてもいいわ。なぜなら、私はとても優秀な友達がいるから」

彼女の言葉の後半部分は、まるで「高橋賢也」の名前を出しているかのようだった。

遠藤先生もその意図を察し、彼女が伝説の刺繍師・千織であることを信じがたい様子だった。

「白石さん」遠藤先生はお茶をユリカの前に置きながら、「実は......」と言いかけた。

「先生」しおりは遠藤の言葉を遮って言った。「確かに、代役とはいえ、主演の代役を務めるには、技術も品格もあり、虚栄心の強い先生が必要でしょうね」

遠藤はしおりの言葉に驚き、その場の空気が一瞬で緊迫した。

ユリカも、自分が皮肉られたと感じたのか、反撃せずにはいられなかった。

「遠藤先生もどうか彼女に少し良いことを言っていただけませんか?彼女は名誉や地位を気にしないとしても、人生には困難に直面する時があるものですから。友達を持つことは悪いことでは
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