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第9話

しおりはぐっすりと眠り、すっきりした気分で翌日を迎えた。

元気いっぱいで、予定通り遠藤先生に会いに行く。智里も同じビル内の録音スタジオへ行く予定だったので、二人は途中まで一緒に行動し、それぞれ別のビルへと向かった。

「すみません、エレベーターを7階までお願いできますか?」

「かしこまりました......」受付が途中で立ち止まり、少し戸惑いながら言った。「新しいドラマのオーディションはD棟ですよ」

最近、多くの人がユリカの役を狙ってオーディションを受けに来ていて、間違って他の場所に来る人が続出していたのだ。

今日のこの人も、受付が今まで見た中で最も優れた人物の一人だった。気品があり、控えめなメイクだけで医療美容を受けた人々よりもはるかに美しかった。

しおりは軽く笑って答えた。「私は、遠藤先生のスタジオに行くんです」

受付は彼女をエレベーターに送り出し、その姿を見送る中、頭の中で疑問が渦巻いた。

遠藤先生のスタジオは服の修理を専門とする場所、つまりただの裁縫屋だった。そこに出入りするのは、大抵がだらしない中年男性。しかし、今のあの女性は若くて美しかった。どうして......?

「天井に何かあるのか?」爽やかな声と共に、背後から男性が声をかけた。「シャンデリアのクリスタルを取ろうとしてるのか?」

その声の主は、このビルを管理している真島明良だった。彼のユーモラスで朗らかな性格から、従業員たちは親しみを持って接していた。

「もし社長がシャンデリアをスワ○○スキーに取り替えてくれたら、考えてみます!」

「それなら覚えておくよ......」明良は笑いながらからかっていたが、その背後で革靴の足音が響くと、すぐに表情を引き締め、社長らしい態度を取った。「遠藤先生に電話をしてくれ。重要な客が到着したと伝えてくれ」

「遠藤先生のお客様はもう上がっていきました」

「もう上がった?」明良は少し驚いた。「どんな人だった?」

「とても綺麗で、気品があって、落ち着きのある女性でした」

明良の目には一瞬、狡猾な光がよぎった。そして、ふと振り返ると、そこには冷たい顔をした賢也が立っていた。明良は笑いを必死に抑えながら携帯を取り出し、電話をかけた。

「遠藤さん、こっちにめちゃくちゃ優秀な刺繍師がいるんだが、推薦していいか?」

「いらん」遠藤の声は少し詰まったように響
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