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第10話

嫌味のひとつやふたつ、誰にだって言える。

しおりは強気な態度を崩さず、賢也に言い返した。

「あんたには知る資格はない」しおりは顎を突き上げて言った。

賢也は眉間に軽く皺を寄せ、これ以上言い争っても場がますます険悪になるだけだと思い、拳を握りしめた。「母さんが、お前の弟のことを聞いてる。何か適当な理由をつけて説明しに帰ってこい」

「必要ないわ」しおりは淡々と答えた。「手続きが終わったら、すべて話すつもりよ。もう3年間も耐えてきたんだから、誰にもこれ以上道徳を盾に押し付けられるつもりはないわ」

「耐えてきた?」賢也の顔は怒りで暗くなり、冷たい目つきでしおりを睨んだ。「お前に不自由なんかさせたか?何でもかんでも贅沢に暮らして、少しでも気に入らないことがあると、すぐに家出する。母さんだって、お前には友代以上に気を遣ってる。お前が満足するにはどうすればいい?ビルの一番良い場所を『真田菓子店』にでも渡せば、お前は文句を言わないのか?」

「......」しおりの胸は刺すような痛みでいっぱいになり、唇がかすかに震えた。

彼女は目を伏せて、その痛みと絶望を隠した。

賢也もまた視線を落とし、しおりの微かに震える睫毛を見つめた。

しばらくして、しおりは彼の手を振りほどき、ゆっくりと耳からダイヤのピアスを外した。

「賢也、あのカードはもう返したわ。このピアスも返す。家に置いてきた宝石やアクセサリーも全部いらない。どう処分しようが、あんたの勝手よ。時間があったら、一緒に離婚しに行きましょう。これ以上、私も我慢しなくて済むし、あんたも無駄な金を使わなくて済むわ」

そう言うと、しおりはピアスを賢也の手に押し込み、足早に立ち去った。

ちょうどその時、智里がD棟から出てきて、しおりに手を振りながら、路肩を指さした。

しおりは彼女に頷き返し、最後に賢也を振り返って言った。「あんたに期待なんか、するんじゃなかった」

賢也は拳を握りしめ、手からダイヤのピアスが落ちて転がった。

「アイツ、頭でもおかしくなったんじゃないのか?離婚だって?」その様子を見ていた明良が、またしても横に寄ってきた。

「お前には関係ない」賢也はイライラしながら車に乗り込むと、明良の反応を待たずにエンジンをかけ、車を走らせた。

遠藤の件をどうにかするため、明良は受付に頼んで監視カメラの映像を確認し、ユリ
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