第15話

行一の家族がどうしたのかはわからないが、彼は私の世界から姿を消した。

私は仕事と研究に没頭し、穏やかな日々を送っていた。

しかし、その静寂を破ったのは、行一の母親だった。

まだ口を開けていないのに、彼女は泣き崩れてしまった。

「晴奈、私たちがあなたに申し訳ないことをしたのはわかっている。でも、どうか私のためにも、行一を助けてくれないか」

行一の母親の泣き言を聞いて、私は初めて知った。

あの日以来、行一は自虐的な振る舞いを続けた。

ついには倒れて病院で検査を受けたところ、彼の病気が再発したというのだ。

「行一は私に、晴奈に会いに行くなと言ったけれど、あなたはこの分野の研究をしているのを知っているから……どうか、助けてほしい」

一瞬間、呆然としてどう反応すればいいのかわからなかった。

医者として、患者を救うのは当然の務めだ。

しかし、職業を離れれば、私はただの人間であり、感情や喜怒哀楽をはっきりと持った存在だ。

私が行一を許すことは、きっと一生ないだろう。

私は行一の母親の手を押しのけた。

「おばさん、申し訳ありませんが、行一の過去の治療記録はすべて残っているはずです。それに、私がかつて所属していた研究所と、今の病院は連携しています。すでに多くの情報が共有されていますから、他の医者を探してください」

「行一には、ほかにも治療の選択肢があるはずです」

彼が以前言ったように、運命のヒロインを見つけさえすれば、彼の病も癒されるのではないのか？

しかし母の口から、思いもよらぬ話を聞いた。

唐沢理沙は行一を何度も訪ねたが、すべて門前払いされ、一度も会えなかったというのだ。

いまさら気持ちを固めたのか。

しかし、それが何の意味があるのだろう？

私は病院で入院している行一と、顔を合わせた。

彼は支えられながら、廊下を散歩していた。

病気で痩せ細り、骨ばかりが目立っている。

私は視線をそらさずに通り過ぎようとしたが、彼の声が耳に入った。

「晴奈に会いたくて、入院することに同意したんだ」

どこからか、滴り落ちる液体の音が聞こえた。

「何年も晴奈を愛してきたのに、お前が俺のヒロインじゃないかもしれないなんて疑ってしまうなんて……」

私は足を止めず、そのまま大股で前に進み、彼を振り返らなかった。

彼のヒロインなのかどうかは、もう重要で