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第12話

とても奇妙なことだった。

かつて行一が少しでも怪我をすると、私は胸が痛んで仕方なかった。

けれど今では、目の前であの子の拳が行一の顔に当たるのを見ても、私は一切の感情を抱かなかった。

あの子が次第に劣勢になってきたので、私は彼の前に立ちふさがった。誰かが私のせいで不運に巻き込まれるのは避けたかったからだ。

「行一、もういい加減にして!」

ハンカチを取り出し、あの子の血痕を拭っていると、行一は顔を赤くし、握った手が震えていた。

「違うんだ!なぜ、こうなるんだ!」

彼は目を真っ赤にして私を見つめ、同じ言葉を繰り返し続けていた。

私はあの子にタクシーで先に帰るように言った。

その瞬間、行一は私の手首を掴み、痛みを感じるほど強く握りしめた。

偶然とは、複数の出来事が同時に起こることを指す。

私が彼の顔を平手打ちした直後。

ふと目を向けると、道路の向こう側に唐沢理沙が立っていた。

彼女の目には涙が溢れ、こちらに駆け寄ってきた。

行一は私の手を引き、理沙は行一の手を引く——まるで奇妙な三角関係のようだった。

「行一、彼女はもうあなたを愛していないのよ」

「私は別れるつもりはない。二年間、私たちの関係はとても幸せだったでしょう?」

「私たちは確かに愛し合っているはずよ」

胸の奥に、凍てつくような悲しみがこみ上げてくる。

2年、私は海外に行ったのはたった2年だった。

彼らの関係もまた、その2年間で築かれていた。

愛の強さは時間には左右されない。二十年以上かけて築いた堅固な城壁も、たった二年で崩れ去ることがあるのだ。

けれど、これまで私が唐沢理沙をいじめるのではないかと心配していた行一が、今回は彼女の手を強く振り払った。

彼は悪意を含んだ笑みを浮かべ、言った。

「愛してるって?」

「お前は勘違いしてないか?」

「お前はただ晴奈に似ているだけだ。それで少し興味を持ったに過ぎない」

「お前は俺の恋人なんかじゃない。せいぜいこの2年間、俺が一時的に間違いを犯して時間を潰すためのおもちゃに過ぎない」

理沙は行一の手を掴んだまま、力なく崩れ落ちた。

彼女の目には信じられないという色が浮かび、涙が一粒ずつ目尻からこぼれ落ちた。

そんな彼女を見ても、行一の心は全く揺らがなかった。

「これで、もう帰ってくれるか?」

理沙は地面に崩れ落ち
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