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第36話

「もう一度言ってみなさい!」

芳一は高く手を上げ、私を叩こうとしたが、慎一が遠くから呼び止めた。「母さん、ちょっとした口論があっただけだよ。俺が話すから」

「ふふ、電話中邪魔しちゃったわね。すぐに出るから、二人の邪魔はしないわ」

彼女は慎一が私たちのやり取りに気づいていたことを想定していなかったようで、突然態度が変わった。私を叩こうとした手は降ろされたが、頭には彼女の一撃がしっかりと響いた。最近、私の頭ばかりが傷を負っている。

「南朔も外にいるわよ」

「彼に土地を一つ譲ったから、義理は果たしたわ。私の言いたいこと、分かるでしょう?」

芳一は小声で私に忠告してきた。

私は目を伏せ、彼女に出て行くよう促した。

私は父のことを思い出した。

不意に、腰に大きな手が回り、私は慎一の胸に引き寄せられた。

母の冷たい態度とは裏腹に、彼の胸元は暖かかった。私はその瞬間、少し弱気になり、すぐに抵抗することができなかった。

彼の指が私の腰に軽く触れる度に、私は彼に振り向かされた。

少しは慰めの言葉をかけてくれると思っていたのに、彼はこう言った。

「南朔と知り合いなのか?」

私は冷笑して、「あなたも彼に取り入ろうとしてるの?」

霍田家ほどの権力はないが、佐木家は古くからの名門であり、慎一が関係を持とうとするのは不思議ではなかった。

彼は首を横に振りながら、「佳奈、取引をしよう」

母の言葉を思い出し、私はすぐに断った。「彼とは知り合いじゃない」

彼は手を伸ばして私の頬に触れ、「南朔とは関係ない。雲香が怒っているんだ。彼女を説得してくれ」

私は胸が痛んだ。どう答えるべきか迷った。

彼は低い声で言った。「交換条件として、1400万円の借金を免除してやる。明日、雲香を新しい学校に連れて行ってくれ」

私は口を開き、声を絞り出した。「どうして?あなたが時間がないなら、運転手を呼べばいいでしょう?」

「時間はある。だが、雲香と喧嘩してしまった。君に間に入ってほしい。弁護士になりたいんだろう?話すだけで1400万円の価値があるんだ、断る理由はないだろう?」

私は昨日、慎一の腕の中で泣いていた雲香の姿を思い出した。

しかし、合法の妻である私に、愛人のために仲裁に入れというのか?そんなことが正しいわけがないだろう。

慎一は一体どこまで私を追い詰めようとしてい
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