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第60話

夜之介に電話をかけると、数回コールが鳴ってからようやく出た。彼の声はこもっていて、まるで一晩中起きていて、やっと寝たところのようだった。

彼の休みを邪魔したことに気づき、礼を言って電話を切ろうとしたが、彼は私に方向性を整理するよう促してくれた。

「亮介には妻と娘がいたんだが、三ヶ月前に金銭問題で離婚した。彼はホームレスとなった今でも、元妻と娘がよく通る道に出没しているようだ。つまり、彼はまだ彼女たちのことが気になっているんだろう。そこから突破口を探せるかもしれない」

彼は控えめに話してくれたが、その言葉に私への配慮が感じられた。

世の中にただの親切なんてない。夜之介がこれほどまでに私に尽くしてくれることに、少し恐怖を感じる。たとえそこに康平が絡んでいたとしても。

慎一の件を経験して以来、私はいつも少し警戒心を持つようになった。

「渡边先生、どうして私をここまで助けてくれるんですか?」

慎一には腕がある。若くして霍田家の社長になったのもそのためだ。私は慎一が私を通して夜之介を攻撃するのではないかと不安だった。

夜之介は康平ほど家柄が良いわけではない。今でこそ有名な弁護士として尊敬されているけど、結局は一からのスタートだった。

私は心の奥に潜んでいた疑問をどうしても口に出さずにはいられなかった。

夜之介は敏感な性格で、弁護士としては相手の心情を読み取るのが得意だ。彼はかすれた声で言った。「俺の恩師が何年か前に言ってたんだ。『学部にすごい子がいる』ってね。彼は俺にその子を紹介したいと言っていて、俺も律所を大きくするために、その子と一緒にやっていけるんじゃないかって思ってたんだ。でもその子、つまり佳奈が、他の道に進むことを知って、俺は仕方なく他の仲間と律所を始めることになったんだよ」

彼は笑いながら続けた。「だから俺はむしろあなたに感謝しなきゃいけないよ。あなたがいなければ、今の俺はなかったかもしれない」

「はは、褒めてるって受け取っておくわ」

私は乾いた笑いを漏らした。「ああ、思い出したわ!あの茶目っ気たっぷりの先生ね!」

大学時代、法学部には年配の教授がいて、いつも私に男性を紹介しようと必死だった。霍田家の慎一とすでに結婚を決めていた私にはそんな話は不要だったけど、何度説明しても通じなか
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