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第59話

ただ、当時彼はまだ普通の隊員だった。

私は大学近くのカフェに彼を呼び出し、窓の外で彼が一歩一歩こちらに向かってくるのを見つめていた。

数年の間に、あの燃えるような眼差しで熱血だった少年は、少し不屈の意志と強さをその瞳に宿していた。

ドアが開いた瞬間、ベルが大きく鳴り響き、多くの人が彼を見ていたが、彼の視線はただ私だけを見つめていた。

私は立ち上がって、彼に微笑んだ。「また迷惑かけちゃうね」

「迷惑なんかじゃないよ」

彼のおかげで、私は無事に例のホームレスと会うことができた。

吉田亮介という男は、手錠をかけられた手首をじっと見つめ、無言で座っていた。

私が自己紹介しても、彼は全く反応しなかった。

「安井佳奈、あなたが引きずり込んだあの女の子、それが私よ」

その言葉を聞いた瞬間、やっと彼が反応した。彼は顔を上げて私を一瞥したが、その目にはまるで初めて私を見たかのような表情が浮かんでいた。

「帰れ」彼はそれだけ言って、再び顔を伏せた。

せっかくここまで来たのに、当然帰るわけにはいかない。「あなたは殺人未遂ではなく、故意殺人で訴えられているわ。その違いが分かる?」

彼は黙ったままで、私との会話に一切応じなかった。

彼の態度は予想通りだったが、私は話を続けた。「その違いは、霍田家があなたを3年の刑から10年、いや一生出られないようにするかどうかの差よ」

「そんなことはない」彼は静かに私を遮った。「俺は人を殺していない。ただ、うっかり肩を傷つけただけだ。故意じゃない。時々、頭がはっきりしなくて、何をしたのか覚えてないこともある。医者に診てもらえば、俺は無罪放免されるさ」

彼は混乱した表情を浮かべ、突然口数が増えた。それはまるで、誰かに植え付けられた台詞を繰り返しているようでもあり、不安に駆られているようでもあった。

「私があなたを訴えているのに、私は自由の身で、あなたは牢の中にいる。それが無罪放免だというの?」私は冷静に言った。「あなたは罪を認めている。それで捜査の時間が短縮されて、裁判はすぐに進むでしょうね」

「帰れ。帰れよ。お前が牢屋に入れば、俺は出られるんだ」

私が刑務所に入れば彼が出られる?一体どういうこと?

彼と話して、私はますます彼に違和感を覚えた
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