第1話

病院の待合室で、霍田慎一のその長身は人混みの中でもひときわ目立っていた。

「もうあなたに用はない。帰りなさい」

私がやっとの思いで彼のそばにたどり着いたとき、彼はそう言って、私が持っていた袋をさっと取り上げた。慎一の義妹である曲井雲香が深夜に病院に運ばれ、私の役目は彼女の衣類を届けることだけのようだった。まるで使用人みたい、結婚して四年、彼の冷たさには慣れていたので、自ら医者に話を聞きに行った。

医者は、患者の肛門に裂傷ができたのは性行為が原因だと言った。

その瞬間、私はまるで氷の中に放り込まれたかのように、心が凍りついた。私が知る限り、雲香には恋人がいないはずだ。しかし、今日彼女を病院に連れてきたのは、他でもない私の夫、慎一だった。

医者は老眼鏡を押し上げながら、少し同情しているように言った。「若い人はね、スリルを求めるものです」

「どういう意味ですか？」

もっと詳しく聞きたかったが、彼は首を振り、診察室から出るように言われた。

深夜1時の病院は、依然として人であふれていた。私は考え事をしながら何度も人にぶつかってしまった。母親の曲井風凪は霍田家に嫁いできて、雲香はその際に霍田家に入ってきた。そして、慎一と結婚してから、彼女は旧宅には住みたくないと言ったので、私たちの新婚の家でずっと三人で暮らしていた。

雲香が慎一の頬にキスをするのを何度も見たが、ただ兄妹仲が良いだけだと思っていた。しかし、今思えば、二人が口づけまで交わしていたとしても不思議ではない。

それ以上考えるのが怖くなり、足早に病室へと向かった。雲香の顔は青白く、涙で濡れていた。彼女は慎一の袖を掴み、何かを懸命に話していたが、その姿は可憐そのものだった、見る者の心を揺さぶるでしょう。

ドラマでよく見る壁に耳を当てて盗み聞きなんて現実では無理だ。現代のドアは遮音性が高く、閉めると外の音はほとんど聞こえない。慎一は私に背を向けて立っていたので、彼の表情も声も見えなかったが、彼がどれだけ心配しているかは一目でわかった。

ドアを開けようとした手が止まり、最後には下ろした。直接問い詰めるのは賢明ではないし、真実を受け入れられる自信もない。

もともと私たちの結婚は、両家の利害が一致した家族同士の結びつきだった。私は何度も、恵まれた家庭環境の中で「愛」を得たことを幸運に思っていた。しかし、四年の結婚生活で状況は変わり、父がなくなった後、私の家族は次第に没落していった。私はビジネスの才能がなく、父の遺産を無駄にしないようにと、母が一人で苦労して家を支えていた。

普段から慎一に会社のことで助けてもらっているので、ただの疑いだけで問題を起こせば、元々冷めきった夫婦関係さえも維持できなくなるだろう。

家に戻ると、まず雲香の部屋に向かった。女の子は秘密を隠しきれないので。もし好意を持っているなら、何かしらの痕跡が残っているはずだ。

雲香はあまり勉強に熱心な子ではなく、大学もよくサボっていた。お金が必要になると、慎一の腕にしがみつき「お兄ちゃん、お金ちょうだい」と甘えるのが日常だった。身長158センチ、体重は35キロ。笑顔はまるでアニメの中の人形のようで、彼女が甘えると、慎一どころか私だってつい40万円ほどの小遣いを渡してしまった。

しかし、彼女の部屋には本やノートなど、文字に関連するものは一つもなかった。ただ化粧台の上には慎一との古い写真が一枚だけあった。まだ彼らが子供だった頃のものだ。雲香が言うには、それは彼女が霍田家に初めて来た日に撮った写真だという。慎一はすでに小さな大人のようで、不機嫌そうな顔をしていても、その魅力は隠せなかった。雲香はそれが一番お気に入りの写真だと言っていた。

雲香の部屋で何も見つけられなかったので、次は慎一の書斎に向かった。保険の契約書や書類などすべて調べても、何も出てこなかった。

午前3時、私はスマホを手に取り「夫の浮気を見つける方法」と検索した。ネット上の答えは千差万別で、しかし、私たちのような家庭に役に立てる答えはなかった。慎一は各大手ホテルに専用の部屋を持っているので、どこに行っても記録は残らないのだ。

私はベッドの上で悶々として眠れず、慎一に「あなた、今夜は帰ってくる？」とメッセージを送った。私は、彼が私をどれだけ気にかけているかを確認し、それを浮気していない証拠にしようとしていたのだ。潜在意識ではそのもの事実を受け入れられなかった。ましてや、その相手が私の義妹である雲香なのだ。

だが同時に、慎一が帰ってこないことも分かっている。彼は一晩中、雲香の世話をし、寝ずに付き添うだろう。

私は深い苦しみの渦に巻き込まれていた。

だが、予想に反して、5分後に、慎一から「帰る」という一言の返信が届いた。彼の冷淡な性格にふさわしく、短く冷たい返事だった。

その冷たい返事でも私を狂おしいほど喜ばせた。

鏡の中の私は頭を支え、一対の明るい瞳を持ち、世間知らずの純粋さを漂わせている。しかし、私はもう26歳で、こんな純真さがどれだけ男性に衝撃を与えるかを痛いほど理解していた。

私は1階のリビングのソファに堂々と座り、彼がドアを開けた瞬間に私を目にするようにしていた。義妹がいない今こそ、ちょっとした刺激的なことを楽しむチャンスだと思ったのだ。

午前5時まで待ったが、外から車が入ってくる音は聞こえなかった。結局、彼の「帰る」という言葉に涙を落とし、眠りに落ちた。

どれくらい寝たか分からないが、肩を揺さぶられ目が覚めると、慎一の孤高な顔が私の目の前に現れた。

私はソファから起き上がり、身にまとっていた毛布がずり落ち、精一杯の姿を露わにした。私は笑顔で彼に挨拶した。「あなた、お腹すいた？ 何か作ろうか？」

私たちはもう長い間、関係を持っていなかった。もし長い間セックスをしていない人が私のような姿を見て、そして、こんな意味深な言葉を言われたら、どうやって抑えられるだろうか？

「昨日は色々あったんだ」

彼は簡単に説明し、私を抱き上げて階段を上り始めた。

彼の言う「色々」とは、雲香のことで足止めを食ったに違いない。しかし、今はそんなことどうでもよかった。彼に抱き上げられただけで、私の体はすぐに反応してしまい、彼の腕の中で甘えるように身を任せた。

私は彼の喉元に軽くキスをしながら、少し甘えた声で囁いた。「あなた、私を抱いて……」

しかし、彼は私に何もしてくれなかった。

「風邪ひくぞ、ちゃんと服を着ろ」

彼は私を寝室のベッドに優しく下ろし、そう言い残して浴室へと向かった。

一気に虚しさが押し寄せ、さっきまでの情熱があっという間に消え去ってしまった。残されたのはただ恥ずかしさだけ、彼が浴室に入ってから十数分が過ぎても、シャワーの音は止まらなかった。

私は浴室の扉越しに彼に話しかけた。「雲香は大丈夫？私が代わりに彼女を看病しましょうか？」

「いや、大丈夫だ。俺がシャワーを浴びて着替えたら、また彼女のところに戻る」

「仕事は？私が彼女を看病しても同じよ」

シャワーの音に混じって、彼の強い意志が感じられた。「佳奈、彼女には今俺が必要なんだ」

私は浴室のドアにもたれかかりながら、涙を浮かべて笑った。彼女が慎一から離れられないのか、それとも雲香を傷つけたのが彼自身なのか。