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第29話

使用人が慌てて止めようとしたときにはもう遅かった。

砕け散った箱を見て、使用人は青ざめた顔で美月を見つめた。「お嬢様!どうしてこんなことを!」

美月は鼻で笑い、「渡辺家の安物なんか、どうせママは受け取らないでしょ?」

「それでも、こんなふうに壊しちゃったらどうするんですか!藤井さんが直々に夫人に渡すようにって言ってたのに......これじゃ、なんて言い訳すればいいんですか!」

「お兄ちゃんには、ママにもう渡したって言えばいいでしょ。どうやって確認するっていうのよ?」

「でも......」

美月は使用人を睨みつけ、「でもも何もないわ!何かあったら私が責任取るって言ってるでしょ!早くこんなガラクタ片付けてよ!見るだけでムカつく!」

使用人は震えながら、言われた通りにそれを片付けた。

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美穂が帰宅すると、美帆はすぐに彼女の首に貼られた絆創膏に気づき追及してようやく今日の出来事を聞き出した。

「あの妊婦の女、そんなことして、罰が当たってお腹の子供に跳ね返るとは思わないのか!」美帆は憤慨した様子で怒鳴ったあと、ふと話を変えた。「でもさ、あのベンツのイケメン、結局コーヒー一杯しかお礼してないの?」

「他にどうしろって言うの?」

美帆は太ももを叩いて、「一緒にご飯に誘えばよかったのに!コーヒーだけじゃ物足りないよ!」

「会ったのまだ二回目よ。いきなりご飯に誘うなんて変じゃない?」

「変じゃないわよ。今の時代、初対面で一緒に食事するのも普通じゃない。二回も会うなんて、もうこれって運命じゃない?」

美穂は美帆の含みのある口調に目を細め、「言いたいことあるんでしょ?」

「別にぃ~、ただ、彼は悪くなさそうだから、ちょっとキープしておけばいいんじゃない?」

美穂は抱き枕を彼女の顔に投げつけた。「キープなんてしない!私は既婚者だよ!何言ってんの!」

美帆は抱き枕をしっかり抱え込みながら言った。「でも、もうすぐ離婚するんでしょ?先に物色しとくのが何か問題?」

「もういいってば......今日、離婚の話をしに秀一に会いに行ったんだけど、結局会社から追い出されたのよ」

「なんで?詳しく話してよ」

美穂は今日の川盛グループでの出来事を話したが、秀一にわざと“男性クリニック”を勧めたことはすっ飛ばして語った。

美帆は話を聞き終え、不思議そうな顔をした。
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