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第25話

12階、秀一のオフィス

翔太がノックして入ると秀一は窓際に立ち、下を見下ろしていた。彼が入ってきたのを見て振り返って「帰ったのか?」と尋ねた。

翔太は頷いた。

「何か言ってたか?」

翔太は少し迷い、どう答えるべきか悩んだ。

秀一は彼を一瞥し、「なんだ、まどろっこしいな。彼女は何を言っていた?」

翔太は唾を飲み込み、控えめな声で言った。「奥様が謝ってほしいと言ってました。それと......腸を洗うのを忘れたそうです」

秀一の動きが止まった。

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実際には、腸はきちんと洗われていた。美穂はわざと秀一を不快にさせようと思って、そんなことを言っただけだ。彼が約束を反故にしたのだから、当然の仕返しだ。秀一の今の表情を想像すると、彼女の気分はすっかり良くなった。きっと今頃、胃を洗いたい気分になっているに違いない。

しかし、彼女のその幸せな気分は長くは続かなかった。彼女が乗ったタクシーが途中で他の車にぶつかってしまったのだ。

前回の高架橋での追突事故以来、彼女は車の運転に対して少しトラウマを抱えており、最近はタクシーを利用していたが、まさかタクシーでも事故に遭うとは思わなかった。

擦り傷自体はそれほど深刻ではなく事故の調査書が作成され、保険で処理されることになった。

しかし相手の態度がとても悪く、車から降りるやいなや手を出してきた。配車サービスの運転手も負けじと応戦し、殴り合いに発展した。本来なら交通警察の管轄で済むはずだったトラブルがあっという間に警察署にまで持ち込まれてしまった。

そして美穂は目撃者として事情聴取のために警察署に連れて行かれた。

美穂は見たままの状況を正直に話し、先に手を出したのは普通車の運転手だと証言した。そしてその後何度も手を出してきたため、配車サービスの運転手は自衛のために反撃したに過ぎないと説明した。

調書を書き終え、署名を終えた美穂は警察署を後にした。

美帆は今日休みだったので電話をかけて早く帰ってきてと伝え、何か大事な話があるとだけ伝えた。

電話を切った美穂は、配車サービスを再度呼ぼうとした。

今はちょうど帰宅ラッシュの時間帯で、前に予約している人が六十人以上もいていつ来るか見当もつかない。

彼女は近くに自宅まで行けるバスがあるかを調べようとスマホを見ていたが、突然背後から髪を掴まれ、鞄が顔にぶつかってき
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