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第2話

悠斗が私に敵意を抱いているのは当然だ。

何せ私は沙也加のそばに10年間もいたみんなが知る「イヌ」だから。

私は孤児で、この世に孤独に生きている。感情的な欲求はなく、ただ一生懸命働いて、多くの金を稼ぎ、少なくとも経済的に自由になりたいと思っているだけだ。

あの日、アルバイトから学校に戻る途中、数人の不良に襲われた。孤立無援の私を救ってくれたのが、沙也加だった。

彼女は私の手を引いてその場から逃げ出し、さらに、不良が振り回したビール瓶から私をかばってくれた。

沙也加の額に血が滲み、傷ができているのを見て、私は生まれて初めて他人に対して心からの痛みを感じた。

「泣くことないよ、こんなもの大した傷じゃない」

少女は気にする様子もなく、地面に落ちていたジャケットを拾い上げ、肩にふんわりと羽織った。逆光の中に立つ彼女の冷ややかな目と柔らかな輪郭は、まるで永遠に記憶に残る美しい光景となった。

その一件以来、私は喜んで7年間、彼女の「イヌ」となったのだ。

私はずっと思っていた。最後に沙也加のそばにいるのは自分だと。彼女は気難しく、非常に選り好みが激しい。これまで彼女にアプローチしてきた男は数多くいたが、誰一人として半年以上続いた者はいない。だが、私は文句も言わず、彼女のそばで7年間も付き添い続けた。

特別秘書として、仕事仲間として、そして聞き分けの良い「予備の男」として。

「何を考えているの?呼んでも聞こえなかったじゃない」

馴染みのある温かい腕が私に絡まり、耳元には甘く柔らかい声での文句が聞こえてきた。

「いや、ちょっとあの手強い社長のことを考えていただけさ」

「家に帰ってまで仕事のことは考えないで。今日はね、あなたのためにスペアリブを煮込んで、あと、あなたの大好きな水煮魚も作ったのよ」

私はにっこりと笑いながら、紗英の顔を両手で包み込み、大胆に彼女の頬にキスをした。

「妻よ、本当にありがとう」

紗英は嬉しそうに笑いながら、キッチンへ料理を運びに行った。

小熊のエプロンをつけた彼女の姿を見つめ、私は微笑みを浮かべながら心が解き放たれた。

沙也加、それはもう過去のことだ。目の前にいるこの女性こそ、私のパートナーであり、私の家族なのだ。

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