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第10話

私は冷静に言った。「解雇の必要はありません。自分から退職します」

そして、落ち着いた手つきで社員証を外し、デスクの上に置いた。

「まず、はっきりさせておきたいのは、私は田村社長と何の不適切な関係もありません。ただの上司と部下です」

「次に、私は3年前に結婚しており、その事実は人事部に報告しています。興味があるなら自分で確認してください」

「最後に、私は妻をとても愛しています。根拠のない非難を押し付けないでください。もし名誉毀損があれば、私は法的手段で自分の権利を守ります」

そう言い終わると、私は振り返らずにその場を後にした。

背後から沙也加の声が聞こえた。「夏夜、そんなことしないで......」

しかし、彼女は田村夫人に引き止められ、無力な言葉しかかけられなかった。

私は田村グループのビルの前に立ち、空高くそびえるビルを見上げながら、少し感慨深い気持ちになった。

さよなら、10年間の努力を捧げた場所。

そして、新しい人生の始まりだ。

......

その後の出来事については、児玉から話を聞いた。

沙也加は母親と大喧嘩し、中川グループとの協業も破談になったらしい。

彼女は田村家で多くの嫌がらせを受けていたが、この数年で彼女はすでにしっかりとした地位を築いており、多少の批判はあってもその基盤が揺らぐことはなかった。

私はその話を微笑みながら聞いていたが、内心は平静だった。

田村グループの人事部長は強気で仕事に徹するキャリアウーマンで、彼女は以前から私と沙也加の関係を良く思っていなかった。かつては上司との距離を保つようにと忠告を受けたこともある。それでも彼女は、社内のOAシステムで私が既婚であることを公表し、間接的に私の名誉を守ってくれた。また、長年の貢献を考慮して、彼女は私のために退職金を多めに手配し、内外に「円満退職」という形で、双方の面目を保つようにしてくれた。

すべてが形式的に見えたが、彼女の善意には感謝していた。

退職後、以前の同僚たちから多くのメッセージが届いた。そのほとんどは、別れを惜しむ言葉だった。

私は心から感動した。長年、私が会社のために尽くしてきたことを、みんなが理解し、心に留めていてくれたのだ。

携帯を見ながら微笑んでいると、紗英が寄ってきて存在感をアピールしてきた。

「ねえ、旦那さま、携帯ばかり見てないで、
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