共有

第065話

「私が誰かは重要じゃない。重要なのは、あなたのような女が私の孫に関わることを決して許さないということだ!」お爺さんは篠崎葵を上から下まで見回した。

黄色味がかった肌、疲れ切った表情、そして風塵にまみれた姿。濃厚な化粧では彼女の卑しい本性を隠すことはできず、話すたびに粉がボロボロと落ちるかのようだった。

さらに、その服装はまるで街角の娼婦の中でも、特に酷いものだった。

こんな女が、杉山家の男を誘惑しようとしているだなんて、なんて愚かなことだ。

「あら、杉山おじいさま!偶然ですね、どうしてこちらにいらっしゃったんですか?」その時、宮川玲奈がまるで杉山お爺さんに気づいたかのように驚いた表情で声をかけた。

そして、宮川玲奈はわざと篠崎葵にちらりと目をやり、得意げな表情を浮かべた。

篠崎葵のこの姿、この化粧は、まさに宮川玲奈の作品であり、杉山お爺さんにわざと見せるために計画したものだったのだ。

宮川玲奈は杉山家で育った。杉山智正の叔母の娘であり、叔母と叔父が早くに亡くなったため、杉山智正の母親が宮川玲奈を杉山家で養育していた。

そうした経緯から、宮川玲奈は自分も杉山家の娘だと思っていたのだ。

南都において、杉山家の令嬢である宮川玲奈は、自分こそが藤島翔太にふさわしい名門の娘だと信じていた。しかし、藤島家の宴会で、藤島翔太は篠崎葵を公然とキスした。

それが宮川玲奈の怒りに火をつけた。

もしその日に従兄の杉山智正が彼女を止めていなければ、彼女は怒りのあまり篠崎葵の顔に傷をつけていたかもしれない。

しかし、この篠崎葵という女は、藤島翔太だけでなく、杉山智正とも関係を持とうとしている。従兄は篠崎葵を妹のようにしか見ていないと言うが、宮川玲奈にとって、それは許しがたいことだった。

彼女こそが杉山家の令嬢であり、杉山智正の本当の妹なのだから。

一方で、篠崎葵はただの卑しい女だ。

宮川玲奈は、杉山お爺さんにこの篠崎葵の卑しい姿を見せることで、彼女を恥かしめようとしていたのだ。

篠崎葵は、今回のクルーズ船での変装メイドの役割を頼まれた理由の一つが、杉山智正の祖父の前で彼女を恥をかかせるためだとすぐに理解した。

篠崎葵は心の中で皮肉な笑いを抑えきれなかった。

出所してたった1ヶ月の女囚が、藤島翔太と関わったことで、次々とこの裕福な家族の無駄なゲームに巻き込ま
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status