第041話

桜庭隆一は彼女を簡単には逃がすつもりはなかった。「俺が立て替えてやるよ。給料が出たら、倍返しな」

篠崎葵は実はとても空腹だった。

彼女は真剣に頷き、「わかった。まずは借りておいて、給料が出たら倍返しするわ」と言った。

桜庭隆一は彼女を小さな食堂に連れて行き、手頃な料理をいくつかと鶏肉入りの麺を二杯注文した。

麺が出されると、篠崎葵は急いで食べ始めた。半分以上食べ終えても俯いたままだったが、大体完食して、ふと顔を上げると、桜庭隆一が全然食べていないことに気づいた。

「食べないの？」篠崎葵が尋ねた。

桜庭隆一はだらしない態度で、軽く悪態をついた。「くそっ、明日この店を潰してやる！

料理を頼むときに、俺の好きな甘口の料理か確認したんだ。そしたら、そうだって言ったのに、料理が出てきて食べたら、全然甘くねぇ！

全部酸っぱくて辛ぇ味じゃねぇか。

気に食わねぇから食わねぇよ！

でも、お前の口には合うみたいだな？気に入ったならもっと食え。そうすりゃ、この店潰さなくて済むからな」

篠崎葵は彼が実際にはもう食べ終えていて、ただ彼女にしっかり食べさせようとしていたことに気づいた。

心が温かくなり、「ありがとう。おかげでお腹いっぱいよ」と微笑んだ。

「次はどこに送ってやる？兄さんのところには戻れそうか？」桜庭隆一が興味津々に尋ねた。

篠崎葵の顔から笑みが消えた。

しばらく沈黙した後、「夏井さんが入院している病院に送ってくれる？先にそちらに行って夏井さんの付き添いをしたいの」と答えた。

彼女は夏井淑子のために写真を撮れなかった。どう説明すればいいのかわからなかったが、今夜は行くあてもなく、とりあえず病院へ行って、そこで一晩過ごせる場所がないか探るしかなかった。

桜庭隆一は気長に彼女を病院まで送って行き、それから車で去って行った。

篠崎葵は病院では夜間の付き添いは禁止されていることを知っていたので、病室には行かず、ただ夏井さんの部屋の窓の下で身を丸め、一夜を過ごした。そして一晩中考えていた。

翌朝、夜が明けるとすぐに、篠崎葵は始発のバスに乗って藤島翔太の家に向かった。

彼女は心を決めていた。これまでの経験を藤島翔太に包み隠さず話すつもりだった。

一方、藤島翔太は一晩中眠れなかった。

本宅から戻る途中で篠崎葵を見かけたが、怒りのあまり連れて帰らなかった