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第046話

「私たち母子がここまで来るのは決して容易なことではなかった。私は彼を守るために、彼が想像もできない苦労をしてきたし、彼も私を守るために、私が想像もできない反撃をしてきたの。翔太が今日の地位にいるのは、多くの敵を作ったからでもあるわ。もし、私が藤島家の本宅を望んでいることを彼が知ったら、きっとどんな手を使ってでも、私をその屋敷に住まわせようとするでしょう。でも、私は彼にこれ以上苦労させたくないの」夏井淑子の声には、悔しさと同時に、息子への深い愛情が感じられた。

篠崎葵は、夏井淑子の言葉の奥に、女性の孤独な人生を感じ取った。

夏井淑子は一度もウェディングドレスを着たことがなく、一度も藤島家の正式な一員として認められたことがなかった。息子が今、全てを掌握しているにもかかわらず、彼女の心には多くの重荷があり、願いを叶えることができない。

夏井淑子の運命は、まさに篠崎葵自身の運命と重なって見えた。

どちらも未婚で子供を授かり、孤独に生きてきた。

夏井淑子がこの先も孤独な人生を送るのと同じように、篠崎葵もまた、その運命を辿るかもしれない。

そう考えると、篠崎葵は自然と夏井淑子への同情心が増していった。

「お母さん、明日、魚のお粥を持って伺いますね。明日の朝、楽しみにしていてください」篠崎葵は電話越しに微笑んで言った。

電話を切った後、彼女はバッグから杉山智正の名刺を取り出し、名刺に書かれた携帯番号に電話をかけた。

電話が長く鳴った後、ようやく通じた。

しかし、応答したのは礼儀正しい女性の声だった。「はい、どちら様でしょうか?」

「えっと......杉山智正さんの電話ですか?」篠崎葵が尋ねた。

「はい、杉山社長は現在会議中です。こちらは社長の秘書です。ご用件は何でしょうか?」その女性が応じた。

「いえ、特にありません。ありがとうございます」篠崎葵は、杉山智正が自分を避けていることを察した。

名刺を渡し、彼女の携帯番号を聞いたのは、単なる宴会での気まぐれな遊びに過ぎなかった。

なのに、彼女はその軽い出会いを真に受けて、借金の話を切り出してしまった。

こんな直接的なアプローチでは、相手が引いてしまうのも無理はない。

電話を切った後、篠崎葵は荷物をまとめて病室を出た。病院の玄関に出ると、藤島翔太の助手である谷原剛がそこに立っていた。

谷原剛は真剣な表
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