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第026話

林美月は再び呼びかけた。「翔太君......」

藤島翔太は無言で携帯電話を取り、番号を押した。「谷原剛、すぐに来て林さんを家まで送ってやれ」

林美月は一瞬言葉を失った。

電話を切ると、藤島翔太は冷たく言い放った。「ここで待っていろ。谷原剛は三分で来る。彼が家まで送ってくれる」

そう言うと彼はエレベーターに乗り込み、上の階のボタンを押した。

エレベーターの扉が閉まり、林美月はひとり、雨の中で呆然と立ち尽くしていた。

三分後、谷原剛が到着し、車をバックさせて林美月の前に停め、窓を開けて声をかけた。「林さん、早く車に乗って、雨に濡れないようにしてください」

「使えない奴ね!」林美月は突然態度を変えた。

谷原剛は驚いて、「え?」と言わんばかりの表情を浮かべた。

「私は藤島四郎様の婚約者よ!彼の運転手として、あなたは車から降りてドアを開け、私の足元にひざまずいて足台にするのが当然でしょう?」

谷原剛は絶句した。

はしばし沈黙し、言葉を飲み込んだ後、谷原剛は無言で車を降り、ドアを開けて片膝をついた。「林さん、どうぞお乗りください」

林美月は満足げに微笑んだ。「これくらいなら、まあまあ合格だな」

その夜、林美月は確信した。何をしても藤島翔太は自分を妻に迎えるのだと。

藤島翔太はあの夜、命を救ったのが自分だと信じ込んでいる。

この「免罪符」を手に入れた今、篠崎葵を蹴落とすのはたやすいことだろう。

林美月は鼻をくすんと鳴らした。

そして、意気揚々と、谷原剛の車で家に帰った。

一方で、藤島翔太は上階に上がり、部屋に戻った。玄関を通り、洗面所の前を通った時、ちょうど篠崎葵がドアを開けて出てきた。

浴びたばかりの清潔な香りが、顔にまとわりついてきた。

「肌ケアプラス」と「蜜花シャンプー」は安物だが、さわやかな香りでむしろ心地よい。

篠崎葵は白いバスタオルを巻き、手に持ったタオルで濡れた髪を拭いていた。藤島翔太に気づかず、彼女はそのまま寝室へ向かおうとして、突然『ドン』と藤島翔太にぶつかってしまった。

さらに、彼の靴を片足で踏んでしまった。

「きゃっ......!」篠崎葵は驚き、パニック状態に。「あなた......あなた......自分の部屋に戻ったんじゃないの?あなたの部屋には......すべて揃っているはずでしょ、なぜ出てきたの?」

彼女は
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