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第77話

しかし、佐藤峻介は友人や幼なじみに聞くことはできなかった。

もし聞けば、周囲の人たちに過去の記憶が一部戻っていることが知られてしまうからだ。

里美ちゃんはもともと彼が高橋優子と過去にあった感情を不安に思っていたので、彼女の心にこれ以上不安を与えることはできなかった。

高橋優子は光風市大学を出てから気持ちを整理し、北田菜奈を迎えに行った。

彼女は笑顔で北田菜奈に尋ねた。「今日は学校でどうだった?」

北田菜奈は手話で「とても良かったよ。クラスメートがみんな優しくしてくれて、ちょっと申し訳ないくらい」と答えた。

「それは良かったね!」高橋優子は北田菜奈の頭を優しく撫でた。

北田菜奈は頷き、真剣な眼差しで高橋優子を見つめながら手話で伝えた。「お姉ちゃん、新しい学校に転校できて本当に嬉しいよ。これから私たちの生活はもっと良くなると思う」

高橋優子は微笑みながら北田菜奈の手を握った。「そうね、これからもっと良くなるわ」

北田菜奈を学校に送って行った後、高橋優子が宿舎に戻り、ドアの前に立ったところで隣の宿舎の森川律子がドアを開け、泡だらけの頭を突き出して言った。「優ちゃん!ちょっとお願いがあるんだけど、お風呂使わせてくれない?うちの宿舎の給湯器が壊れてお湯が出ないの。寒くてたまらない!」

「いいですよ!」高橋優子はドアを開け、バスローブを着た森川律子は急いで浴室に駆け込み、ドアを閉めた。

高橋優子がダウンジャケットを脱いでいると、突然ゴミ箱の中の妊娠検査薬とその箱のことを思い出し、緊張した。

彼女は浴室のドアの前に行き、ノックした。「先輩、ちょっと中に入って物を取ってもいいですか?」

水の音が止まり、森川律子が答えた。「急いでる?すぐ終わるから待ってて!」

高橋優子は唇を引き結び、ゴミ箱は洗面台の下にあるし、森川先輩が見えることはないだろうと思い、「大丈夫です、急ぎません」と答えた。

森川律子は素早く頭の泡を洗い流し、ガラスドアを開けて浴室から出て、バスローブを着直しながら顔を拭いているとき、視線の端にゴミ箱の中の妊娠検査薬とその箱が見え、一瞬驚いた。

彼女はドアの方を見てから、しゃがんでじっと見つめた。

やっぱり妊娠検査薬とその箱だった。それに検査薬はどうやら二本の線が出ていた!

森川律子の頭は一瞬真っ白になり、彼女は突然立ち上がった
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