「水野さんは会社の指示に従わず、他社と結託して新若を裏切ったため、すでに会社から除名されました」と哲也は無関心に言い、直美に封筒を投げ渡した。「あなたも新若に長くいるでしょう。あなたの働きぶりは会社も見ています。頑張れば、前途は洋々たるものですよ」直美はその膨らんだ封筒を見下ろした。「開けてみなさい」と哲也は顎が動いて、少し得意げな笑みを浮かべた。実際、開ける必要もなかった。テーブルに投げられた封筒の口は少し開いており、中の紙幣が見えていた。その厚みからして、決して少額ではないことがわかった。「社長、これは私を買収しようとしているのですか?」と眉を上げて、彼女は手を伸ばさなかった。「なんてことを言うんだ!」と舌打ちをして、哲也は首を振った。「これは会社からのご褒美だよ。ちゃんと働いて会社の言うことを聞けば、あなたにも必ず良いことがあるさ」「では、会社に感謝します」封筒を取り上げてポケットに入れた。お金と仲たがいする理由はない。会社からの褒美なら、もらわないのは損だ。直美がおとなしくお金を受け取るのを見て、哲也は内心ほっとした。お金を受け取ったということは、自分側に立つことを意味すると考えたのだ。「高橋さん、最近の会社の開発と製品については、今のところあなたが一番詳しいだろう。これからは若江さんのアシスタントとして働いてもらおう」そう言うと、綾子がようやく体を起こし、直美の前にゆっくりと歩み寄った。目を細めて彼女を見つめ、「水野さんのそばにいたんだから、何か秘密のレシピとか、外部に漏らしてはいけないものを学んだんじゃないの?」直美は首を振った。「私は才能がないので、ただ手伝いをしていただけです。すべてのレシピやアイデアは水野お姉さんが研究して生み出したものです」「黙りなさい!」と綾子は苛立たしげに言った。「何が水野お姉さんよ。私の前でそんな姉妹ごっこはやめなさい。はっきりさせておきなさい。誰があなたに給料を払っているの?誰のお金をもらっているの?水野は会社を裏切り、企業秘密を売り渡した。彼女は刑務所行きよ!あなたが彼女と一緒に刑務所に行きたくないなら、そんな親しげな呼び方はやめなさい!」彼女の叱責に対し、直美は冷ややかに笑い、社員証、会社の入退室カード、そして予め用意していた退職届をまとめて取り出し、哲也の机の上に置
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