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第44話

「新崎社長、高橋さんが来ました」秘書がドアを開け、顔を覗かせて言った。

哲也は頷いて、「入りなさい」と言った。

少し気まずそうに笑顔を作り、直美は携帯をしまってから入っていった。まあいいか、まずは様子を探ってから美緒に伝えよう。

「社長」ぎこちなく彼を呼び、彼女は黙って傍らに立ち、彼が口を開くのを待った。

正直に言えば、直美は新崎哲也という人物に好感を持っていなかった。

彼女は美緒と長く過ごしてきて、ほとんどの時間を二人で実験室で過ごしていた。

直美は自分を勤勉な社員だと思っていた。学生時代から努力家だったが、美緒の側にいてから初めて、人はそこまで寝食を忘れて没頭できるのかと気づいた。

何度も実験室で眠りに落ちた彼女が目覚めると、美緒がまだデータを記録し、研究を続けているのを見て、本当に尊敬に値すると感じた。

最も重要なのは、彼女がそれほど努力し、名誉も利益も求めず、すべての栄誉を譲り渡し、ただ一心に哲也のために尽くしているのに、この薄情な男が今、自分のためにそれほど苦労して尽くしてくれた女を塵のように扱おうとしていることだった。

直美は唾を吐きたい衝動を抑え、それでもかなり礼儀正しくしていた。

「直美、休暇から戻ってきたんだね?どうだった、楽しかった?」

哲也の丁寧さは偽善的に感じられたので、直美はただ笑顔を作って答えた。「休暇から戻ったのではなく、休暇を中断されたんです。社長が急いで戻ってくるように言ったんじゃないですか?元の予定では、まだ……半日の休暇が残っていたはずです」

そっけなく言い返されて、哲也は眉をひそめたが、それでも穏やかに言った。「確かにそうだね。申し訳ない!でも突発的な事態で、戻ってきて手伝ってもらわざるを得なかったんだ。この件が終わったら、3倍の代休を与えるよ」

「本当ですか?」眉を上げて、直美は信じられないような様子で、「本当に3倍ですか?」

「絶対だ!安心してくれ!でも忘れないでほしいのは、前提として、高橋さんに小さな頼みごとがあるということだ」彼は丁寧に言った。傍らにいた若江綾子はひたすら白目をむいた。

若江綾子はテーブルの横にある大きな寝椅子に横たわり、長い脚を組んで、くつろいで揺らしていた。寝椅子も彼女の動きに合わせて、軽くゆらゆらと揺れていた。

直美は彼女を見もせず、ずっと哲也を見ていたが、彼のこの
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