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第14話 就任

苑里は車内で必死に哀願したが、慶一は怒りの感情が胸に渦巻き、どこにも発散できずにいた。

もし今回が偽りであったなら、過去の三年間、一体どれが本当だったのか?

冷たい風に吹かれながら歩いていると、派手なスポーツカーがゆっくりと停まり、車内の人が彼に手を振った。「兄貴、乗れよ......」

圭一も宴会に顔を出していたが、先ほどの出来事で十分楽しんだので、慶一が去るのを見て、彼も宴会を抜け出した。まさか路上で彼に会うとは思っていなかった。

慶一は助手席でタバコを一本吸い、煙が立ち込める中、鈴楠がタバコを持つ姿を思い出し、瞬間的に固まった。

「兄貴、鈴楠に会ったのか?彼女と西城の晋也はどういう関係だ?」

圭一が尋ねると、慶一はさらに苛立ち、彼自身も答えを知らないこんな質問に答えたくなかった!

幸いなことに、今日の宴会には記者がいなかったので、今回の件は業界内で大きな騒ぎになることはなかったが、藤原家の立場上、誰も勝手に情報を漏らす勇気はないだろう。

「まあ、俺が言うのもなんだけど、彼女みたいな女が君に嫁いだのは、本当に君にとって不幸なことだ。今日も苑里姉さんを狙ってくるとは、全く信じられない。君たちが離婚してよかったよ、じゃなかったら藤原家全体が彼女のせいで滅びていただろう。今日、彼女がどうやって晋也を釣ったのか分からないが、二人は君たちよりも親しげに見えたよ。彼女にこんな腕前があるとは思わなかった」

慶一のような立場の人間には、釣り合いの取れる相手がふさわしい。鈴楠のように金のためにあの手この手で藤原家に嫁ごうとする女なんて、彼ら兄弟は誰一人として見向きもしなかったのだ。

圭一の軽蔑的な言葉を聞いて、慶一は微かに不快感を覚えた。

慶一の眉間には一層の冷たさが漂い、黒い瞳は冷え冷えとしていた。「もういい、やめろ」

圭一は口を尖らし、どうせもう離婚したのだし、気を利かせて慶一に迷惑をかけない限り、それでいいのだ。

慶一は黙り込み、顔色は暗く、片手でタバコをもみ消し、風の中に消えていった。「一杯飲みにでも行かないか?」と圭一が提案する。

慶一は無言で了承した。「行こう」胸の中の苛立ちをどうにかしたかったのだ。

一連の騒ぎが収まると、鈴楠は宴会の中心人物となり、晋也は正式に鈴楠が副社長として会社の上層部に就任することを発表した。

そのため、二人の親密な関係についての憶測が一層深まったが、二人は特に説明せず、笑って済ませた。

鈴楠はグループ内で確固たる地位を築くために、相続者の身分を内緒に、自分の能力に頼る必要があった。そして、人脈も非常に重要だ。

会社内では不満の声も多かったが、晋也の決定に逆らう者はいなかった。

晋也は自分の腹心である伊藤和也を鈴楠の秘書に指名し、毎日2時間を割いて彼女に直接指導した。鈴楠は毎日、退社前の2時間を晋也のオフィスで過ごした。

鈴楠が揺り椅子でのんびりしている姿を見て、晋也は笑いながら「こんなサボってると、今度はパパが教えに来るぞ?」とわざと脅かした。

鈴楠はすぐに起き上がり、「そんなのイヤだ!」

「数日後には巨立グループの周年記念式典がある。その際に彼が抱えているプロジェクトが手放されるが、君も挑戦してみるといい」

鈴楠の目が輝いた。「いいね、絶対に手に入れてみせるわ」

「そう簡単にはいかない。みんながその肥えた獲物を狙っているから、手に入れるのは容易じゃない。俺はその日は外国で会議があると思うが、三男が帰ってくるはずだ」

「三男が帰ってくるなら、私が迎えに行くわ」

三男の佐藤翔太に会うのは久しぶりで、最後に会ったのはテレビで彼のドラマを見た時だった。

晋也は微笑みながら時間を確認し、「行こう、飯でも食いに行くか」と言った。

レストランに入った途端、鈴楠の顔色が曇った。本当に狭い世界だ。

まさか晴子と瑛美もそこにいたのだ。

「マネージャーはどこだ?こんなゴミみたいな連中がここに入れるのか?」と藤原瑛美が大声で叫んだ。

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