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第12話 返金

会場の雰囲気は一瞬でカオスになり、すべての視線が3人に集中した。

誰もが藤原家の醜聞を知っていたが、藤原家の強大な権力の前では、誰もが公然と見物する勇気を持っていなかった。

この元妻、本当に噂通りの無実な存在なのか?人々は疑念を抱き始めた。

慶一は軽く眉をひそめ、苑里の無礼に不満を感じた。彼が引き離そうとしたその瞬間、鈴楠が突然振り返り、冷然とした顔を見せた。

人々が驚愕する中、鈴楠は苑里の腕をつかみ、ためらいもなくプールの方へと引っ張って行った。

苑里はまるで弱々しい雛鳥のように、抵抗する余地さえなかった。

鈴楠は苑里の顎をしっかりとつかみ、「パーン」一発のビンタを放った。苑里は悲鳴を上げた。

鈴楠に解放された瞬間、プールに放り込まれた。

苑里の泣き声はその場で途絶え、彼女は狼狽しながら水中で必死にもがいた。

鈴楠は冷たく手を引っ込め、その瞳には鋭い冷ややかさが宿り、無関心な口調で言った。

「やっていないことは、やってから認めればいい。自己演出の必要はない。今、私は認

めた」

人々の目の前で放り込まれた苑里の姿は、彼女が自ら飛び込んだ時とは全く異なるものだった。そして、人々の疑念は徐々に変わり始めた。

慶一は一瞬で疑念を抱き、目の前の鈴楠はまるで別人のように感じた。

プールの水は深くなかったため、苑里は誰も助けに来ないことに気づき、自力で這い上がろうとした。だが、その時、頭上に冷たい感覚を覚えた。

82年もののラフィーの香りが漂い、髪に沿って流れ落ちた。苑里の尊厳は完全に踏みにじられ、彼女は驚愕しながら顔を上げた。

鈴楠の瞳には冷酷な嘲笑が浮かび、半分のワインを苑里の頭上に注ぎ込むと、彼女の気分はすっかり良くなったようだ。

「これはおまけだよ、橋本さん。まだ行かないで、もう一つプレゼントがあるの」

鈴楠が人々の視線から消えた後、苑里を見る目には軽蔑が浮かんでいた。

悪人が正々堂々と悪事を働くわけがない。

冷静沈着な者と、慌てふためく演者。

明らかに、苑里こそが偽善的で巧妙な首謀者であった。

「慶一......」苑里は震えた声で慶一を見つめた。

彼女は鈴楠を憎んでいた。彼女が現れた瞬間から、慶一の視線は彼女から離れず、すべての注目を奪われていた。

鈴楠がいなければ、自分はこんなにも惨めで、笑いものになることはなかった。

彼女は認める。彼女は今、怖くなった。鈴楠が次に何を仕掛けてくるのか分からず、

ただ早くここから立ち去りたいと思っていた。

慶一は視線を戻し、側にいたサービススタッフが苑里を助けに来た。二度の落水で彼女

は震えていた。

「さっき自分で落ちたんだろう?」慶一の目は冷たく、声もまた冷たかった。

苑里は動揺し、「もちろん違うわ。私が鈴楠を陥れるわけがないでしょう?彼女が復讐しようと狂ったように見えたじゃない......慶一、私を信じてくれないなら、恒之を信じてくれない?」

慶一は冷酷な視線で彼女を見つめ、その威圧的な目つきに苑里は震え上がった。

「まずは君を家に送る」

苑里の顔には一瞬安堵が浮かんだが、誰かが「二階を見て!」と叫んだ瞬間、彼女の表情は再び硬直した。

人々の視線はすべて二階に向けられた。鈴楠がそこに立ち、彼女の隣にはワニ革の大きなバッグが置かれていた。

彼女は手すりにもたれかかり、手にはタバコを挟んでいた。煙がたなびき、その風情は万人の目を引きつけた。

苑里の心は激しく震えた。鈴楠が無関心にバッグから札束を取り出し、躊躇なく撒き散らしていた。地面に、プールに......

一束また一束と、サービススタッフや客たちはその金を拾おうと必死になった。人々はこの光景に驚愕していた。

鈴楠はそれでも満足せず、バッグをそのままひっくり返し、慶一と苑里の目の前に5億円の現金が雨のように降り注いだ......

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