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第37話

氷川颯真が橋本美咲を温泉に連れていた途中、二人に会ったスタッフは、みんな目を見開いて驚いていた。

この可愛い女の子は誰だった?どうして氷川社長と一緒にいるの?

まさか、社長夫人のことは本当だった?この女の子が噂の社長夫人だな。可愛い橋本美咲とクールでかっこいい氷川颯真を見て、スタッフたちは思わず感心した。本当に美男美女だったと。

途中に会ったスタッフたちの目線を気づいた橋本美咲は、不快ではなかったが、少し不思議に思った。「颯真、みんな私を見ている気がするんだけど?」

氷川颯真はやっと自分の妻が目立っていることに気づいた。周囲の好奇心あふれる視線に、不機嫌そうに眉をひそめた。

氷川颯真は橋本美咲を引き寄せて、抱きしめた。そして、冷たい顔で周りを見渡した。

彼の視線を受けたスタッフたちは皆頭を下げた。みんながもう橋本美咲を見ていないのを見て、颯真は頭を下げて、橋本美咲の耳元で囁いた。「違うわ。美咲のことを見ていないよ」

橋本美咲は信じられない様子で氷川颯真の胸から頭を上げた。もう誰も彼女を見ていないことに気づいて、思わず戸惑った。

しかし、このことはすぐに彼女の頭から消え去った。不満そうに氷川颯真の腕の中でもがいた。「なんで抱きしめたの?歩きにくいじゃない」

氷川颯真は何も言わなかった。ただ橋本美咲の力に従って放して、歩調を早めた。

二人はすぐに温泉に着いた。

橋本美咲は広々とした温泉を見て少し驚いた。「一人用の温泉でこんなに大きいの?なんだか広すぎる気がするわ」

氷川颯真は愉快そうに橋本美咲の鼻をこすった。「おバカさん、ここを借り切ったんだ。誰もいないのは当たり前よ」

橋本美咲は唇を尖らせた。「もう鼻をこすらないでよ。鼻が低くなっちゃうわ」

氷川颯真はさりげなく手を下し、何事もなかったように、話し続けた。「でも、普段もここにはあまり人が来ないんだ」

橋本美咲はちょっと驚いた。「どうして?ここの環境はとてもいいじゃないか、人気がなさそうでもないし、景気がそんなに悪いの?」

「だって、ここは僕の専用温泉だから、誰も来ないんだよ」

二人は同時に話し出して、ばつが悪い雰囲気が漂った。

「ゴホン」氷川颯真は少し咳払いをした。「温泉に入ろうか」

橋本美咲も顔が真っ赤にした。恥ずかしさのあまり顔を伏せて、慌てて頷いた。

ぎこちなく温泉のそばに
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