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第170話

氷川颯真は満足そうに視線を戻した。「それでは妻を連れて先に失礼するね」

氷川颯真は木村社長に軽く会釈すると、橋本美咲の手を引いて、車に乗り込んだ。

氷川颯真が去った後、木村社長はほっとした。さすがは氷川グループの社長、その威圧感が半端なかったね。

氷川颯真のさっきの一言、もし自分がそれを断ったら、会社が終わるのではないかという感じがあった。

彼は額の汗を拭き、橋本美咲の助手に見送られながら、彼女の会社を後にした。

車の中で、橋本美咲は不満げに氷川颯真の脇腹の肉をつねった。「さっきどうしてあんなに急いで私を連れ出したの?木村社長を見送る前に行くなんて、非常に失礼よ」

橋本美咲につねられた氷川颯真は凄く痛そうだったけど、何も言えず、妻に謝るしかできなかった。「ごめん、ごめん。痛いよ、奥さん。もうつねらないで」

氷川颯真が痛がる声を聞いて、橋本美咲は心が揺らいで、手を離した。

氷川颯真は急いで痛むところを揉み、顔に笑みを浮かべて橋本美咲に言った。「だって、奥さんに会いたかったんだもん。それに、あの木村社長はきっと寛大だから。そんな小さなことは気にしないと思うよ」

「あんたの国語は誰に教わったの?」

橋本美咲は呆れた顔で、この社長らしさのない男を見つめた。

「寛大ってそういう使い方なの?」

「違う!」

氷川颯真は堂々と橋本美咲に答えた。「でも、奥さんには寛大に許してほしい」

今回、橋本美咲は鼻で笑って、しぶしぶ氷川颯真を許した。

橋本美咲のこういう気難しい性格には、氷川颯真もすでに慣れていた。

颯真は妻に説明した。「実はこんなに早く、奥さんを呼びに来たいわけじゃないよ。ただ、ドレスを作ってくれる人が、突然ひらめいて、奥さんの採寸をしたいって。しかも、どうしても本人に会わないとダメって」

そうでなければ、こんなに早く来るわけがなかった。妻との約束を守ったはずだ。氷川颯真は常に橋本美咲の決定を尊重していたから。

氷川颯真の説明を聞いた橋本美咲は、最後のわだかまりも消えた。「わかったわ。それなら、そのデザイナーに会いに行こう」

「聞いたか?」氷川颯真は前で運転している助手に冷静に言った。「もっと早く走ってくれ」

運転席に座っていた助手は、ようやく現実に戻った。社長の指示に返事をした後、集中して車を運転し始めた。

車はすぐに、渋滞が激しい高
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