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第169話

もしさっきの木村社長が、ただ単に橋本美咲が結婚したことに驚いていただけなら、氷川颯真が、車から降りてきたときにはすでに驚愕していた。

彼は目の前の堂々とした若者を見て目を見張った。

間違いない。以前氷川グループと小さな取引をしたことがあったから。たとえ、その取引は氷川グループにとっては、小さな契約に過ぎなかったとは言え。

しかし彼にとっては大きなチャンスだった。その時、幸運にも氷川グループの社長にお会いすることができた。

明らかに、この人は氷川颯真であった。

氷川颯真は気にもしていなかった。木村社長なんて彼にとって、まるで空気のような存在で、完全に無視できた。

何?彼がかつてこの社長と取引したことがあるって?それがどうしたって言うんだ?氷川グループと取引した会社なんて山ほどあるのに、颯真がなぜ自分よりも世界ランキングが低い人物のことを、気にかける必要があったのか。

今、彼の目には自分の妻しか映っていなかった!

氷川颯真は橋本美咲のそばに歩み寄り、愛情を込めて美咲の手を取った。「奥さん、仕事が終わった?この後、ドレスを注文しに行こう」

橋本美咲はため息をつき、氷川颯真を一瞥した。「まだ客人をもてなしているのが見えないの?こんなに早く来るなんて、午後には会えるのに」

美咲は慣れた様子で氷川颯真に不満を言った。颯真は橋本美咲のそんな態度にも構わず、ますます笑顔を広げ、彼女の言葉を寛大に受け入れた。

「奥さんに会いたかったんだ」颯真は笑顔で言った。

「一日千秋って言うだろ?半日も会わなかったから、少なくとも、その半分は経った気がするよ」

二人は周りを気にせずに惚気ていた。

木村社長は目を見開いて、橋本美咲と氷川颯真の親密な姿に驚愕した。

顔には現実感がないような表情が浮かんでいた。ちょっと待って。さっき見たこの人は確かに氷川グループの社長だったよな?

でも、どうして記憶にある人物とは少し違うんだろう?この無限に妻を愛し、ちょっと子供っぽくて口が上手いヤツは誰なんだ?現実感がないが、木村社長は氷川颯真を軽視することはなかった。ただ、心の中で橋本美咲の重要性をさらに高めた。まさか橋本美咲の夫が氷川颯真だったとは。そう考えると、橋本美咲が彼よりも上に行くのは時間の問題だった。

そもそも橋本美咲自身の能力も非常に高く、ただ単にリソースと人脈が足りな
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