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第168話

橋本美咲は少し戸惑った。「違うわ、そういう意味じゃないの。私が言いたいのは、私は元々颯真たちのその界隈の人間じゃないってこと。

「他人から見れば、私は橋本家の娘で、たいした家柄じゃない、ただ…」

美咲の声は次第に小さくなり、心の奥底の劣等感が顕になった。頭の中には氷川颯真の母の言葉が浮かんだ。自分を弁えなさい。颯真と一緒にいる資格があると思っているの?氷川颯真は眉をひそめ、橋本美咲の口を押さえた。美咲はそれ以上言葉を続けることができなかった。

颯真は真剣な顔で橋本美咲を見つめた。「美咲ちゃん、君は僕の妻だ。僕、氷川颯真が選んだ人だ。それだけで君は大多数の人よりも優れている。

「僕から見れば、彼らは塵芥同然だ。僕の妻の足元にも及ばない」

橋本美咲はだんだんと静かになった。氷川颯真の言いたいことは理解していた。でも、甘い言葉は誰でも言える。そして、颯真が心からそう思っていることも分かっていた。だけど…

氷川颯真は気にしなかったが、橋本美咲は気にしていた。とても気にしていた!美咲はその理由だけで、苦労して手に入れた愛を失いたくなかった。しかし、今の氷川颯真の真剣な顔を見て、彼女は反論する力がなくなり、大人しく頷くしかなかった。

氷川颯真はそれに満足して手を下ろした。彼は橋本美咲に向かって言った。「じゃあ、奥さん。明日一緒にドレスを誂えに行こう。僕の妻がどれほど素晴らしいか、皆に見せてやろう」

橋本美咲は心の中で苦笑した。素晴らしい?

そうは思えない!名門の令嬢たちは、どれも自分より優れていた。

しかし、美咲の顔には一切の異変が見られなかった。彼女はうなずいた。

「大丈夫だわ、颯真。でも、午後しか空いていないよ。会社である漫画の契約があって、午前中は忙しいの」

氷川颯真は気にも留めずに手を振った。「大丈夫、ドレスの誂えはいつでもできるから。奥さんは心配しなくていい」

颯真がそこまで言った以上、橋本美咲はもう反対する理由はなかっただろう。

時間はすぐに翌日になった。橋本美咲は早朝から会社に行き、木村社長と契約を結ぶ準備をしていた。

いつものビジネスカー、いつもの人。しかし今回は、木村社長の橋本美咲に対する態度が少し違っていた。

彼の顔には親しみやすい笑顔が浮かんでいたが、表面からは何も読み取れなかった。しかし、明らかに橋本美咲を対等な人間として
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