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第164話

氷川颯真の言葉を聞いて、橋本美咲は安心した。口元に甘い笑みを浮かべた。「わかった、待ってるね」

そう言うと、自分の服を整え、おとなしく階段を下りて、氷川颯真が迎えに来るのを待った。

一方、氷川颯真は電話を切ると、冷たい雰囲気を漂わせながら、部長を睨んだ。

「誰が僕の電話中に口を挟むことを許可したんだ?」

部長は震えながら頭を下げた。「申し訳ございません、社長。でも次の会議は本当に重要なので、次回のチャリティーオークションに関することですから…」

部長の声は氷川颯真の冷たい視線の下で、どんどん小さくなっていった。

彼は心の中でつぶやいた。社長、あのオークションは、何百億単位の取引ができるようなものなのに、どうして急に帰るんだ?氷川颯真は自社の部長が怯える様子を見て、ようやく満足して視線を戻した。

「ただのチャリティーオークションだ。僕、氷川颯真がそんなに金に困っているように見えるか?

「その時のことはその時に考えればいい。今は僕の妻の方が大事だ」

颯真は助手に向かって言った。「ガレージの車を一台出してくれ。美咲ちゃんの会社に妻を迎えに行く」

助手はすぐに命令に応じ、少しのためらいもなかった。

社長の側に長い間いた彼は、社長が自分の妻をどれだけ大事にしているかをとっくに見抜いていた。何百億なんてどうでもいいことだ。

社長がそんなはした金を気にするか?彼は心の中でそうつぶやいた。一方、隣の部長は、涙が出そうなくらい困り果てていた。うちの社長は、結婚して以来、責任感がなくなって、しょっちゅう仕事を抜け出すようになった。しかも、会議も頻繁に遅刻するようになった。

男は女に弱いとは言うが。一体どれほどの美人なら、うちの仕事中毒な社長を、こんな風にさせられるんだ!

最も重要なのは、氷川颯真が職務を離れれば、彼が抱えている仕事を、部下に分担してもらわないと、会社全体の運営が成り立たないということだった。

一見すると何も問題はないように見えた。しかし、ちょっと考えてみてごらん。氷川颯真の仕事って、普通の人ができると思った?

彼の仕事量は普通の人の三、四倍もあるのだ。つまり、今夜も、部長は残業確定ということだった。彼も妻や子供と過ごしたいのに!部長がどう思おうと、氷川颯真はもう帰る決心をした。

颯真が階段を下りると、助手がすでに車の外で待っていた。

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