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第163話

黒崎会長にその話を終えた後、橋本父はすぐに電話を切った。この件についてもう考えるのはやめた。

彼の心の中には別のことを考えていた。どうやら橋本美咲は本当に彼らを気にしないようだった。今最も重要なのは、何とかして月影ちゃんを、精神病院から救い出す方法を考えることだった。

そして、長年家に置いてあったあるものを思い出すと、橋本父は、必ず自分の思い通りになる様な顔を浮かべた。

橋本美咲、たとえお前が今良い夫に嫁いだとしても、そんな態度を取っても、何だというのだ?うちには、お前をねじ伏せるものがあるんだぞ。

橋本父は去って行った。

後ろの警備員は橋本父の姿を疑わしげに見ていた。

こんなに簡単に去るなんて。後でまた来るのではないか?

警備員は少し警戒心を抱いた。この前は自分がトイレに行って、ちょっと目を離した隙に、アイツが入り込んでしまった。次はこんなことがあってはならない。警備員は心の中でそう決意した。

オフィスにいる橋本美咲は、橋本父に気分を害された後、もう書類の対応を続ける気にはなれなかった。

この前の黒崎拓也の件、橋本美咲は何とか乗り越えたものの、まだ少し怖かった。今度は橋本父の件が起こって、大事にはならなかったものの…

橋本美咲はとても疲れたように携帯を取り出した。彼女は今すぐ氷川颯真に会いたいと思った。最近起こったことが多すぎて、とても疲れていたから。

しかし、橋本美咲は少し躊躇しながら、氷川颯真の番号を見つめた。

颯真に電話をかけるべきか。でも、この時間帯は忙しいはずだ。

橋本美咲が迷っていると、まるで彼女の心の声を聞いたかのように電話が鳴った。発信者は氷川颯真だった。

橋本美咲の目が輝き、すぐに電話に出た。

「もしもし、颯真」

美咲の声には自分でも気づかないほどの喜びが含まれていた。「何か用事でもあるの?」

返ってきたのは、少し心配そうな氷川颯真の声だった。「奥さん、君の助手から、君の父がそっちに行ったって聞いたけど。どう?大丈夫だった?」

颯真は凄く心配していた。橋本美咲にまた何か起こるのではないかと、ひどく不安だった。あの時、黒崎拓也に壁に追い詰められた美咲を、見た時の恐怖が蘇っていた。

橋本美咲の心は温かくなり、両手で携帯を握りしめた。

「大丈夫よ、颯真。さっき彼が入ってきて、少し話したけど、すぐに警備員に追い出さ
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