第6話

非常にシンプルで洗練された白いドレスを着た彼女は、照明が彼女に集中しているため、まるで光輪を背負っているように見える。

美緒はシンプルな服装だけでなく、装飾も一切なく、メイクもとても薄い。しかし、そのシンプルさが彼女の清らかな容姿を一層引き立てている。

「美緒？！」哲也は自分の目が信じられなかった。彼の脳は、何が起こっているのかをまだ判断できていなかった。

思わず彼女の前に駆け寄り、声を低くして言った。「ここに何しに来たんだ？」

「ここに来たのは、もちろん、コンペに参加するためよ」

彼女は彼に一瞥をくれ、口元に皮肉な笑みを浮かべ、横を向いて進み続けた。

「美緒！」

彼女の手首を掴み、哲也は低い声で少し苛立ちを交えて言った。「ふざけるな！ここはふざける場合じゃない！」

VIPルームにいる庄司耀介は目を細め、画面上のその分際をわきまえない手を見つめ、目つきは急に冷たくなった。

次の瞬間、美緒は力強く腕を引き抜いた。「新崎社長、ここがどんな場所か分かっているなら、もっと自重してください！」

その言葉が終わると、彼女はすでにステージに立っていた。

彼女の変化は哲也の予想を大きく超えた。彼は驚いて振り返り、ステージに立つ彼女を見つめた。

普段は素直でおとなしい彼女が、今日はどうして……

「皆様、こんばんは。私は新生の調香師、美緒です。本日の応募作品『初恋』は、私が調合したものです」

彼女はゆっくりと、言葉を一つ一つはっきりと話し、そこにいる全ての人に聞こえるようにしていた。

ステージの上の美緒を見つめながら、綾子は手に持ったワイングラスをぎゅっと握りしめ、歯を食いしばって表面的な笑顔を保ったが、哲也をちらりと見て、早く助けてほしいと合図した。

しかし、今の哲也もまた、美緒をしっかりと注目している。あの女は何をしようとしているのか？！

「先ほど、主催者からお知らせがありました。『初恋』という作品が他の作品とアイデアがぶつかったことに、私自身も驚いています。しかし、審査員たちが公正な判断を下すと信じていますので、私は審査を受け入れるつもりです」

そう言い終わると、彼女は後ろに二歩下がり、マイクから少し離れた。

彼女は品があり優雅で、何故か人々に彼女を信じたいと思わせるような雰囲気を持っていた。

ただ——

「美緒？この名前、なんだか聞き覚えがあるな」

「そうそう、思い出した！以前、県の調香コンペで新人賞を受賞したことがあったけれど、その後は音沙汰がなかったね」

「それはもう古い話だよ。数年前のフィンランドの大会で、彼女は大失敗をして、鼻のない調香師だとみんなに言われていたんだ！」

「はは、彼女か！それなら知ってる！」

一瞬のうちに、皆の美緒への視線が変わった。

嘲笑、軽蔑、ほとんどが見物するような心構えだった。

実際、このコンペのレベルは高くなく、多くの業界の有名な大手企業は参加しておらず、中小企業ばかりが盛り上がっていた。

賞のレベルを問わず、たくさん受賞することだけで、調香師や会社の知名度を高め、徐々に成長していくことができる。

新生のような会社は、確かにアジアパフュームの傘下にあるが、設立からあまり時間が経っておらず、務めた調香師もアジアパフューム本社の高級調香師ではないため、これが公平だと見なされるのだ。

周囲の議論を聞いて、綾子は少し慌てた心を落ち着け、笑顔を浮かべてステージに上がった。

「皆さんの時間を無駄にしてしまい、申し訳ありません。私は新若の調香師、綾子です。ここで多くの同業者と出会えることを大変光栄に思います」

彼女はにこやかに言った。「実は、この業界に入ってからの時間は長くも短くもなく、三年以上になりますが、調香を学んでいたのはもっと昔からです。この何年も、私が一生懸命に作り上げた作品が盗作されるなんて思ってもみませんでした。本当に……」

彼女は二度笑って、頭を振った。「どう言えばいいのか、私のアイデアを盗んだ人に感謝するしかないですね。これも私の作品を認めてもらった別の表現だと思います」

振り返って、綾子は美緒に向かっていたずらっぽくウインクしたが、全く恥ずかしさは感じていなかった。

美緒はその場に立ち、綾子が自分に向ける表情を冷静に見つめていた。綾子の厚かましさには感心せざるを得なかった。嘘をこんなに堂々と言えるなんて。

二人の女は笑っていて、会話も優雅で丁寧だったが、現場のきな臭さはすぐに爆発しそうだった。

司会者がタイミングよく口を開いた。「どうやら、双方ともに説得力があるようですね。本当にアイデアの衝突なのでしょうか？」

「業界にこんなに長くいて、アイデアの衝突なんて聞いたことがありません」

「そう！名前がかぶることはあり得るかもしれませんが、香りがどんなに似ていても、必ず違いがあります。どうして全く同じになることができるのでしょうか」

「盗作、間違いなく盗作です！」

「盗作者を甘やかしてはいけません。これは業界の恥です！」

綾子は再びマイクを握り直した。「私自身も、盗作行為を非常に憎んでいます。でも、大会が私に公正をもたらしてくれると信じています！」

彼女は自信満々で、まるで勝者のような姿勢を見せていた。それに対し、美緒はあまりにも冷静に見えた。

「水野さんはどうですか？」司会者が尋ねた。

「私は主催者を信じていますし、自分の作品も信じています」

彼女は淡々と微笑み、言葉は少なかったが、目には確固たる決意が満ちていた。

司会者は場を和ませようと笑った。「それでは……」

言いかけたところで、眉をひそめ、鼻を数回すぼめた。「えっと……」

司会者の動作に、他の人たちもすぐに気づいた。多くの人が鼻をすすって、非常に奇妙な匂いを感じ取った。

正確に言うと、非常に不快な匂いだった。

臭いというだけではなく、少し生臭く、香りも混ざっていて、吐き気を催すような感じだった。

「何の匂い？」

会場に玄人が揃っていて、様々な香りに慣れているが、この匂いには本当に慣れなかった。

「主催者、会場の清掃はどうしたのですか？なぜ臭いがするのですか？」誰かが問いただした。

司会者は急いで説明した。「会場は昨日、全面的に清掃されましたので、絶対に……」

彼の言葉が終わらないうちに、数歩横にずれ、綾子を見る目が少し複雑になった。

綾子はもっと話したいと思っていたが、マイクを握る前に、司会者はまるで疫病から逃げるように彼女から離れた。

一瞬、彼女は呆然とし、理解できなかった。

他の人たちも司会者の様子を見てすぐに理解し、綾子の方向に少し傾け、すぐに頭を引っ込めた。

「彼女だったのか！」

「これは何の匂いだ？早く窓を開けて！」

周囲の非難の声を聞いた綾子は、ステージの上で顔色が白くなったり赤くなったりし、非常に気まずく感じた。

彼女も奇妙な匂いを感じていたが、自分から発せられているとは思っていなかった。

今、頭を下げて匂いを嗅ぐのも恥ずかしいと思い、どうしていいかわからなかった。

「水野さん！」

その時、哲也が突然彼女の名前を叫び、とても悲しそうな顔で「なぜ私を裏切った？！」と叫んだ。