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第64話

小林弁護士は首を振った。「詳細はわかりませんが、水野さんの口調からすると、態度はかなり断固としているようです。しかし、現在の証拠を見る限り、我々の会社はほぼ確実に勝訴できるでしょう。ですので、社長はあまり心配する必要はありません」

彼は心配していた。どうして心配しないことがあろうか!

弁護士が心配していないのは、表面的な証拠しか見ていないからだ。結局のところ、彼は心の中で最もよく分かっていた。この数年間、会社の製品開発は美緒の功績なしには成り立たなかったということを。しかし、彼女は決然と去って行き、一切の余地を残さなかったのだ。彼がここまで追い込まれた以上、お互い徹底的に争うしかない。

しかし、美緒は自分に勝算がないことを知っているはずだ。なぜ折れようとしないのか。新生側が何か後ろ盾を与えたのか、それとも彼女が何か切り札を握っているのだろうか?

哲也はとても困惑していたが、今のところ答えを見出せずにいた。

「分かった。裁判はいつですか?」

「来週です」

「準備を進めてください。彼女にもう何度か電話をしてみてください。昔の縁を考えて、法廷外で解決できると伝えてください。ただし、あまり強気な言い方はしないように。分かりましたか?」

小林弁護士は少し困った様子で、「分かりました。ですが……」

「お下がりください」

弁護士が疑問を抱えたまま出て行った直後、綾子が直接入ってきた。

彼女は社長室に入る時、決してノックをしない。会社では誰もが知っている。綾子は名目上は開発ディレクターだが、実質的には社長の奥様だということを。

ただし、最近の噂話は実に面白く、みんな密かにこの話題に夢中になっていた。

今、彼女が身をくねらせながら社長室に入っていくのを見て、人々は小声で噂し始めた。

「ねえ、ネットの情報見た?社長と社長の奥様のあの件よ」

「誰?社長の奥様って?」

「ほら、若江さんのことよ!そんなの言わなくても分かるでしょ?」

「知ってる知ってる。二人の間に不倫相手が入り込んで、しかも何年も続いてて、最後には裏切って会社の機密資料を持ち出したっていう、あの……」

「水野美緒!」

「そう、水野美緒よ!確か彼女も我が社の社員で、時々本社に来てたわよね。研究員だったかな?」

「そうそう、彼女よ。見た目は綺麗なのに、まさかこんな人だったなんて。前から社長
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