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生まれるも得ず、死ぬことも許されず
生まれるも得ず、死ぬことも許されず
著者: 又崎喜一

第1話

刑務所を出たその日、空は晴れ渡っていた。

看守が私の背中を軽く叩いて、「しっかりやり直せよ」と声をかけてきた。

その一押しで少しふらついたが、何とか踏ん張り、荷物を手にして外に出た。

門を出た瞬間、目の前に見覚えのある背の高い男が立っていた。カジュアルな格好で、車に寄りかかりながらタバコを吸っていた。

端正な顔立ちにどこか品のある佇まいをしていた。橘渉真だった。

一方、地面の水たまりに映る私の姿は、3年前のくたびれた長袖を着て、痩せ細り、顔色は土気色。かつての華やかさなんてどこにもない。

胸がズキリと痛み、私は袋を握りしめた。

視線を落として、彼の前を通り過ぎようとしたが、その時、彼がタバコを消し、大股でこちらに歩いてきた。

「葉山桜子?」

低い声には苛立ちがにじみ出ていた。

思わず一歩後ずさりし、全身が震えた。

「くっせぇんだけど」彼は鼻をつまみ、露骨に嫌な顔をした。

私は自分の服の匂いを嗅いでみたが、確かに出所前にちゃんとシャワーを浴びたはずだ。

でも、長い間便所のそばにいたせいか、あの臭いが体に染みついてしまっているのかもしれない。

何も言えずにいると、彼は呆れたように私の襟元を掴んだ。

「わ、私......自分で......」

か細い声で、どうか自分で帰らせてもらえないかとお願いしようとした。

少しでも彼の目に触れないように、遠くへ行きたかった。

だが、彼は私の言葉を無視して、無理やり車に押し込んだ。

車の中で、彼は臭いが気になるのか、前の窓を大きく開けたまま運転していた。

私は隅に縮こまり、風に吹かれて目がしょぼしょぼしてきた。

車窓から見える景色は、懐かしさを感じる一方で、どこかよそよそしさもあった。

3年という月日が流れていたからだ。

今、橘渉真は私を家に送ろうとしている。

でも、私に家なんてまだあるのだろうか?

両親がドアを開けて橘渉真を見たら、笑顔を浮かべた。「渉真くん、来てくれたのね!

どうぞ中へ入って、美紀が君を待っていたのよ」

母は嬉しそうに彼の手を取ろうとしたが、彼はそれをさりげなく避け、桜子を送り届けただけだと冷静に伝えた。

その瞬間、両親の笑顔が消えた。

父は眉をひそめて何か言おうとしたが、母は橘渉真を一瞥して、すぐにそれを遮るように声を張り上げた。「桜子、帰ってきたのね!」

無理やり笑顔を作り、涙を浮かべるが、その目は冷たいままだった。

橘渉真は、両親の引き止めを振り切り、そのまま帰ってしまった。

彼が去ると、父はドアを閉め、こめかみを押さえながら言った。「どうして渉真くんに迷惑をかけるんだ?」

母は苛立ちを隠せず、私に厳しい声で命じた。

「服を脱ぎなさい!そんな不吉なものを家に持ち込まないでよ!」彼女は腕を組み、私から遠ざかるように立っている。

私は服の裾を握りしめ、歯を食いしばって上着を脱いだ。

冷たい風が体に当たり、全身が震えた。寒さと屈辱で、涙が溢れそうになった。

着替えた途端、母は私にビンタを食らわせ、私はその衝撃で倒れた。「このクソ女!美紀があんたのせいで傷ついたんだからね!なのに、よくものうのうと帰ってきたわね!」

私は何とか口を開けて一番親しい家族に説明しようとしたが、声が出なかった。

美紀を傷つけたのは私じゃない。

彼女が私を誘った。

私が被害者なのに。

だけど、言葉が喉に詰まってどうしても出てこなかった。

母は何度も私を蹴りつけ、ようやく父が口を挟んだ。「まぁ、もういいだろう。帰ってきたんだし、これ以上騒ぎを起こすのもどうかと思うぞ」

母は鼻で笑い、つぶやいた。「外で死ねば良かったのに......」

私は床に丸まって、痛みがどこから来るのかも分からなくなっていた。

涙が止まらなかった。

朝、看守が「迎えが来ている」と言った時、私は両親が迎えに来てくれると思っていた。

3年間、彼らは最初の2回しか電話に出なかったし、それ以降、私を一度も訪ねてこなかった。

それでも、私は希望を捨てきれなかった。

20年以上、父と母と呼んできたのだから。

でも、本当は、彼らは私が外で死んでいた方が良かったのだ。

「死ね」という言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。

唇を強く噛みしめ、血の味が広がったところでようやく我に返った。

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