第5話

彼の目には一瞬、不満の色が浮かんだ。

美紀が先に口を開いた。「渉真兄、私と両親は旅行の計画を立てたの。だからお姉ちゃんには家でゆっくり休んでもらおうと思って、待たずに出発したの。お姉ちゃんは多分、怒っていると思うから、ちゃんと話をしてみるね」

美紀の柔らかい言葉に、渉真の怒りは少し収まった。冷たく鼻を鳴らして言った。「彼女のためにそんな心配をする価値はない」

私の指先が少ししびれた。

微笑みながら言った。「そうだね、私にはその価値がない。だから、あなたたちの邪魔はしないよ。これからは遠くに避けるから」

その言葉を聞いて渉真の表情はより暗くなった。

歯を食いしばって叫んだ。「桜子！」

でも私は早足で逃げ出し、彼の声はもう聞こえなかった。

頭の中には、刑務所で人に踏みつけられながら、二度と渉真に近づかないと誓った光景が浮かんでいた。

何度も何度も誓い、何度も助けを求めた。

でも誰も私に耳を傾けてはくれなかった。

胸が激しく上下し、息を荒げながら、ゆっくりと地面にひざまずいた。

美紀が再び肉まん屋の前に現れた。

私は急いで厨房に戻り、手に持っていた皿を洗い場に置いて、どこかに隠れようとした。

彼女が一歩前に出て、私の髪を引っ張った。「呼んでるんだから、なんで逃げるの？」

彼女の目には嘲笑と悪意が浮かんでいた。

心が沈み、震えながら彼女の名前を呼んだ。「美紀！」

彼女はさらに強く私の髪を掴み、私が持っていた皿を見て言った。「あなたはここでバイトしてるの？じゃあ、私が食事する時は、サービスしないとダメよ！」

私は乾燥した下唇を噛んで、抑えきれない恐怖を感じた。

だけど、仕方なくエプロンのポケットからメモ帳を取り出し、美紀のテーブルに歩み寄った。「何を食べますか？」

喉が詰まったようになり、声はほとんど聞こえないくらい小さかった。

美紀は熱湯でカップを温め、使った熱い水を私にかけてきた。衣服を通り抜けてもそれほど水はかからなかったけれど、ほんの少しの痛みを感じた。

彼女は眉をひそめて言った。「あんた、ここにいるなんて邪魔よ！水をかけられても当然でしょ！」

私は手に持ったペンをぎゅっと握りしめた。

その時、前田おばさんが私に気づき、すぐに私の前に立ち塞がった。「ああ、お嬢さん、怒らないで！この子は新しいバイトで、少し鈍いの。私が注文