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欠けたものは、もう何もない
欠けたものは、もう何もない
著者: 見野

第1話

「最近、当市の港川通り付近で異常殺人鬼が出没しています。被害者はすべて18歳から28歳の女性で、犯行時間はいずれも雨の夜です。市民の皆様には夜間の外出を控えていただくよう注意を呼びかけています......」

突然の豪雨で、窓が激しく開いた。

狂風に煽られたカーテンがはためき、大粒の雨が室内に叩きつけられた。

私は苦労して窓を閉めたが、テレビの放送は突然途切れた。

停電だ。周囲は瞬く間に薄暗闇に包まれた。

その時、ポケットの携帯が突然振動し始め、鋭い着信音が不気味に響いた。

長らく連絡を取っていなかった以前のお手伝いさんからだった。

電話の向こうから焦った声が聞こえてきた。

「歌音ちゃん、どうして電話に出ないの?」

「ニュース見た?最近の変質者の件で持ちきりよ。最新の事件はあなたの住む通りで起きたのよ」

稲妻が走り、部屋が一瞬白く照らされた。

私の心臓は喉元まで上がってきて、小さな声で呟いた。

「見ました。ここ数日は外出していません」

彼女は声を落として、慎重に言葉を選んだ。

「それと、今回電話したのは主に......」

二秒ほど間を置いて、言葉を詰まらせながら続けた。

「陸野原が先日出所したの。気をつけてね」

彼女は慌ただしく電話を切り、私は恐怖の中にひとり取り残された。

陸野原......もう7年経ったのか。

ザーザーと降り続ける雨の中、ドアの外で急ぐ足音が近づいてくるのに気づいた。

重い足取り、男のようだ。

右まぶたが激しく痙攣し始めた......

次の瞬間、ドアを叩く音が響き渡った。その勢いはドアを壊すかのようだった。

私はほとんど反射的に携帯で110番を押しかけた。

遅かった、押し切れなかった。

男は扉を破って侵入し、私を見るなり飛びかかってきた。

「歌音、ここに隠れていれば見つからないと思ったのか?」

彼は大きな手で私の髪を掴み、引き寄せた。

「この売女、俺と離婚する気か?」

「お前、死にたいのか?」

私は殺人鬼ではなく長年DVを受けてきた夫の林晶に見つかったことに安堵と絶望を感じた。

彼に引っ張られ、ローテーブルの鋭い角に体を打ち付けられた。激痛で叫ぶことさえ忘れそうになった。

さらに腹部に数発の拳が食らい、私は体を丸めて泣き叫んだ。

男は私の手首を掴み、抵抗を許さない口調で言った。

「家に帰るぞ」

「最後に警告する。もう逃げる気は起こすな」

私は顔をそむけて彼を睨みつけたが、体は本能的な恐怖で震えが止まらなかった。

何度も耐え忍んだ結果、彼の暴力はエスカレートするばかりだった。もう地獄のような生活には戻りたくない。

私は血の混じった唾を彼の顔に吐きかけ、苦笑いを浮かべた。

「言ったでしょう。もう離婚したわ」

「二度と戻らない。今日ここで私を殺して、死体を持ち帰るならともかく!」

男の額に青筋が浮き上がり、目に怒りの炎が宿った。

「この売女、俺がお前を殺せないと思っているのか?」

彼の胸が激しく上下し、手近にあった硬質ガラスの花瓶を掴んで高く振り上げた......

私は苦痛に目を閉じた。予想された強打は降りてこなかった。

ドアの方から第三者の声が聞こえた!

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