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第5話

私はほとんど息ができず、咳き込んだ。

彼は私を放し、服を引き裂いて布切れを作り、私の血まみれの手をいくつもの層で包んだ。

「歌音、俺がそんな人間じゃないって分かっているはずなのに、なぜ一度も面会に来なかったんだ?」

「俺は一度も殺人で復讐しようなんて思わなかった」

「今もそうだし、7年前もそうだった」

彼は顔を上げた。その灰色の瞳に涙の膜が張っていた。

まつ毛が揺れ、涙が落ちて、私の手の甲に落ちた。

「歌音、信じてくれ。俺は一度もお前の妹を殺そうなんて思わなかった」

「頼む......」

彼が泣くのを見たのは初めてだった。でも、私はもう持ちこたえられなかった。

連続した傷害とショックで、ほとんど全ての力を使い果たしてしまった。まぶたが重く閉じていった。

......

陸野原はかつて、私の灰色の人生に差し込む唯一の光だった。

2016年の夏、彼は自らの手で私の妹を殺した。

7歳まで、私には幸せな家庭があった。唯一の不満は、父が出張が多く、めったに帰ってこなかったことだ。

7歳の時、母が亡くなり、私は父の本当の家に引き取られた。

私の母は父の愛人で、私は外に置かれた私生児だったのだ。

私の幸せな生活は、その日から終わりを告げた。

最初、父は母との昔の情を思い出して私の世話をしていたが、やがて見て見ぬふりをし、最後には完全に放置するようになった。他人が私をいじめ、侮辱するのを許した。

父違いの妹は幼い頃から体が弱く、先天性の心臓病を患っていた。

彼女は私を拒絶し、際限のない悪意を向けてきた。

周りの人は、それを彼女の無邪気さだと言い、父の愛を他人に譲りたくないだけだと言った。

そうして彼女は何度も私を陥れ、父は毎回彼女の味方をした。

私は綱渡りのように慎重に生きるようになり、ますます敏感で自信がなくなり、社会性障害まで現れた。

陸野原が現れるまで、私の人生に光が差し込むことはなかった。

彼は父の部下の副社長の息子で、大学入試で県内トップの成績を収めたため、妹の家庭教師として呼ばれた。

初めて程家を訪れた時、彼は間違って私を妹だと思い込んでしまった。

その時の少年は清々しい顔立ちで、日の光が彼の体に淡い金色の輝きを与えていた。

彼が笑うと目尻が下がり、声も少年特有の爽やかさを持っていた。

「はじめまして、陸野原です」

「君が篠田佳奈さん?」
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