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第10話

7年前、世界は陸野原のものだった。

彼は県内トップの成績を収め、未来の希望であり、考え方も発想も人よりも一歩先を行く存在だった。

7年後、世界の急速な進歩は彼を遥かに置き去りにしていた。

食事の注文をQRコードで行うことも、スマートロボットの使い方も分からず、ただ気まずそうに笑うばかりだった。

強風が彼のコートを激しく揺らし、私は彼の痩せた背中を見て鼻の奥がつんとした。

こんなはずじゃなかったのに。

夕食は何年も前に来たことのある古いレストランを選んだ。

揺らめくろうそくの光の中、彼の目も柔らかくなった。

「歌音、今日は一日中上の空だったね」

「僕がいない間に、君が経験すべきじゃなかったことをたくさん経験したのは分かっている。でも、もう過去のことだ。もう誰も君を傷つけることはない」

彼は2秒ほど躊躇った後、ようやく口を開いた。

「何か困ったことがあれば、僕に言ってくれ。必ず力になれるはずだ」

彼は断言するような口調で言った。

私は答えずに、バースデーケーキのろうそくに火をつけた。

心の中の苦さを必死に抑えて、笑顔を作った。

「まず、願い事をしましょう」

彼はうなずき、不器用にケーキを私の前に押し寄せた。

私は両手を合わせてケーキに近づき、心の中で誕生日の願い事を繰り返した。

「野原が今後平穏で、思い通りの人生を送れますように」

「もう苦しみがなく、これからの人生には甘いことだけがありますように」

「彼が愛する人、彼を愛してくれる人と一生を過ごせますように」

「もう二度と辛い思いをさせないで」

目を開けて、私は笑顔を作った。

「これからも毎年一緒にいられますようにって願ったわ」

陸野原は首を振った。

「願い事を言っちゃうと叶わなくなるよ」

私はグラスを上げた。

「この何年かで、あなたは私にたくさんの杯を借りているわね」

彼は何も言わず、グラスを一気に飲み干した。

私は再びグラスに酒を注いだ。

3杯目を飲むころには、彼の目はうつろになり、そのままテーブルに倒れ込んだ。

私の口元から笑みが消え、涙が流れ落ちた。

傍らにいたウェイターが近づいてきた。私はタイミングよくバッグからカードを取り出した。

「前もお願いしたように、私が帰った後で彼をこのホテルの部屋まで送ってください」

私は立ち上がり、彼を二度と見な
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