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第2話

「なに?人を殺すつもりか?」

男の冷たい声が聞こえてきた。

顔を上げると、ドアに人影が立っていた。

ちょうど稲妻が光り、辺りが一瞬白く照らされ、彼の顔も浮かび上がった。

前髪が目を隠し、鼻筋は通っていて、顎は彫刻のように鋭く、右頬には長い傷跡が走っていた。

どう見ても、手ごわそうな相手だった。

林晶もそれに気づいたようだった。

掲げていた花瓶を下ろし、顔に不自然な笑みを浮かべた。

「すみません、兄弟。邪魔してしまって」

「俺の女を懲らしめてただけさ。すぐに片付けるよ」

彼は私を引っ張り上げようとしたが、その力は少しも緩んでいなかった。

「さあ、家に帰るぞ」

私にはこの見知らぬ男を藁にもすがる思いで頼るしかなかった。

「違います!助けて!彼とは帰りません!」

私は必死に頭を振り、男に助けを求めた。

「もう離婚したんです。彼はずっとDVをしていて、一緒に帰ったら殺されてしまいます!」

男はゆっくりとポケットからタバコを取り出し、口元に運んだ。

「ほう?彼女の言うことは本当か?」

彼の指の間から煙が立ち上り、目つきにも何か曖昧なものが混じった。

林晶は私の口を塞ぎたそうだった。

「この売女の言うことなんか聞くな。兄弟、早く戻ってくれ。俺は家庭の問題を処理してるだけだ」

混乱の中、私の目から涙が溢れ、視界がぼやけた。

男はニヤリと笑い、指でタバコを消した。

彼は私を見た。

「お前を助けてやる。代わりに何をくれる?」

この言葉に、私も林晶も呆気にとられた。

私たちが呆然としている間に、男は数歩で近づき、「ドン」と一発、林晶のこめかみを殴った。

「くそっ、てめえこの野郎!」

攻撃されたことに気づいた林晶は罵声を浴びせ、狂犬のように跳ね起きて男と揉み合いになった。

しかし、彼は男の相手になるはずもなく、あっという間に再び地面に叩きつけられた。

彼が惨めに逃げ出す時も、私を許さないと言い続けていた。

一つの危険は去ったが、別の危険が近づいていた。

空っぽの家に私と見知らぬ男だけが残され、彼は帰る気配がなかった。

私は呼吸を整え、できるだけ冷静を保とうとした。

「ありがとうございます。でも、さっきおっしゃった代償とは?」

彼は私の目をじっと見つめた。漆黑の瞳は前髪に半分隠れ、死の沼のようだった。

「お前はどう思う?」

私たちは奇妙な沈黙のまま2秒ほど睨み合った。彼はプッと笑った。

「なんでもない。ありがとうの一言で十分だ」

彼は外を指差した。

「あのバカ野郎が電線を切ったんだ。だからお前の家は停電している。お前を引っ張り出すつもりだったんだろう。だが、俺の家の分まで切られてしまった」

「俺が確認しに出てきたら、ちょうどお前が殴られているところに出くわした」

彼は私に手を差し出し、淡々とした口調で言った。

「そうだ、挨拶しておこう。俺は最近引っ越してきたばかりだ」

私は握り返した。「はじめまして。私は歌音です」

彼の目が突然輝いた。

目が揺れ、声まで震えていた。

「今、何て言った?」

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