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第9話

少年は爽やかに笑った。

普通なら3〜5分で1つできるところを、私は不器用にも6〜7分かかってしまった。外側はパリパリで、べちゃべちゃにはなっていない。

でも、これを食べたら彼は胃もたれするかもしれない。

「もう一度作り直しましょうか?これを食べたら胃もたれするかも」

「大丈夫です」彼は私の手からすでに包装されたクレープを取り、一口かじった。

「美味しいです。僕に言わせれば、クレープはこのくらい焼いた方が美味しいんです。外側がパリパリで」

彼の褒め言葉に、私は思わず笑顔になった。

「いくらですか?お姉さん、ぼったくりませんよね?」少年は何か思いついたように、目を丸くして私を見た。

「そんなことしないわ。これは約束通り無料よ。開店祝いってことで」

少年が去る時、突然振り返って手を振り、言った。「お姉さん、僕の名前は田中優作です」

少年の去っていく姿を見ながら、ふと気づいた。大学が私からこんなに遠いところにあったなんて。

もし当時あんなに我儘じゃなかったら、今頃は大学卒業して1年目だったはず。

夜遅くなると、お客さんがどんどん増えてきた。

少し手が回らなくなってきた。

でも大丈夫、動きがだんだん慣れてきて、速くなってきた。

材料を全部使い切ってから、やっと帰ることにした。

慶太によると、この通り全体が保護されていて、防犯カメラもあるから、クレープの屋台はそのままにして、カバーをかけておけばいいそうだ。

「送っていくよ」慶太が車を私の前に止めた。

「結構です。私には車があります」私は近くの小型電動自転車を指差した。

「夜は風が強い。風邪を引くぞ」

「死にはしないわ」

「中村幸子、いつまで俺に逆らうつもりだ?」慶太が私の手を掴んだ。

「佐藤さん、忘れないでください。あの時、私があなたの彼女を階段から突き落としたんです。私は罪人です」

この瞬間、慶太との関係を断ち切るために、私は認めてしまった。

「幸子、もう嘘をつくな。全部分かったんだ。彼女が自分で転んだんだろう」慶太が突然後ろから私を抱きしめた。

私の体が固まった。彼は知っていたの?なぜ私に言ってくれなかったの?

藤原愛をかばうため?

「だから彼女をかばうの?私に全てを背負わせて?」私は冷たく尋ねた。

「違う。お前が俺が知ったと分かったら、俺から離れていくと思ったんだ。
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