共有

第6話

騒ぎが起こった。

でも、私の目はただ割れた皿に釘付けになっていた。

まずい、弁償しなければ。

「何があった?」背後から慶太の声が聞こえた。

私は割れた皿を拾おうとしゃがんでいたが、その手が一瞬止まり、そして我を忘れて、不注意で指を切ってしまった。

でも痛みは感じなかった。もっと痛いことがこの後待っているのは分かっていたから。

案の定、後ろで藤原愛が甘えた声で慶太に不平を言い始めた。

「慶太、私たち過去のことは水に流して幸子さんと仲直りしようとしたのに、まさか......」

彼女の言葉が途切れると、別の一人が続けた。「まさか、感謝するどころか、愛姉さんに皿を投げつけようとするなんて」

この息の合った掛け合い、まるで練習したかのようだった。

私は何事もなかったかのように、地面の破片を拾い集めた。

また仕事を失うことになりそうだ。

ホールマネージャーが駆けつけてきて、私を叱りつけた。私は持っていたお金をすべて弁償に出した。いや、10円だけ残した。

それから謝罪の言葉を述べて、その場を去った。

残った10円を持って薬局に寄り、それから家に帰った。

家に着くと、祖父の部屋に行き、祖父の写真を取り出して抱きしめた。

「おじいちゃん、ごめんね。あなたが望むような人間になれなかった」

「好きな人は思い切って追いかけなさい、後悔しないようにって言ってたよね」

「でも、おじいちゃん、幸子はもう疲れちゃった。諦めるよ」

「幸子がおじいちゃんのところに行ってもいい?おじいちゃんが何も言わないってことは、同意してくれたってことでいい?」

さっき薬局で買った睡眠薬を全部飲み込んだ。

慶太がこのことで、また私をあの場所に送ってしまうのが怖かった。

もうあんな生活は送りたくない。

私が生きていく意味が何なのか、もう分からなかった。

でも、睡眠薬なのに、なぜ安らかに眠れないの?

どうしてこんなに苦しいの?

胃がキリキリと痛み、まぶたがどんどん重くなってきた。

目を閉じる瞬間、慶太の姿が見えたような気がした。

「彼女はいつ目覚めるんだ?もう何日も眠ったままじゃないか」

目が覚めた時、慶太の声が聞こえたような気がした。

なぜ私が死んでも、慶太の亡霊に付きまとわれるの?

大勢の医者が私を診察し始めて、やっと気づいた。慶太が私を病院に連れてきて胃洗浄をしてくれたんだと。

命拾いをしたんだ。

あの時見たのは幻覚じゃなかった。本当に慶太だったんだ。

「また私をあそこに送るの?」

顔を曇らせた慶太に尋ねた。

「医者がお前はうつ病かもしれないと言っていた」慶太は私の質問に直接答えなかった。

私は頷いたが、それは重要ではない。重要なのは、私がまたあそこに戻されるのかどうかということだ。

私はそれだけが気がかりだった。

「なぜ俺に言わなかった?」慶太が問いただした。

「言っても信じてくれたの?」言ったところで、彼はただの言い訳だと思うだけだろう。あの場所から出たいがための言い訳だと。

あそこにいる間も、彼に電話をしなかったわけじゃない。半年に一度、「家族」に電話をかける機会があった。

入った直後の半年後、一度彼に電話をかけた。

私は言った。「病気になったの。よく血を吐くし、それに、ここの人たちは暴力をふるうの。出してくれない?もう二度とあなたを邪魔しないから」

その時、彼は何て言ったと思う?

彼は言った。「次は、もっとマシな言い訳を考えろ」

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status