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第3話

彼は一言も言わずにドアを閉めた。私は出られない。暗証番号がかかっているのだ。

彼はそのままシャワーを浴びに行った。

きっとあの軟体動物たちを見て、気分が悪くなったのだろう。

私はおとなしくリビングに座っていた。

およそ1時間後、慶太が降りてきた。

彼はパジャマ姿で、髪はまだ濡れていた。

私は礼儀として、じっと見つめないようにした。

「家の掃除が終わったら住むといい。今夜はここに泊まれ」

慶太が私に説明した。

少し考えてから、私は頷いて彼にお礼を言った。

あの家は広すぎる。私一人では、夜中まで掃除しても終わらないだろう。

彼が近づいてきたので、私は立ち上がり、まるで従者のように横に立った。

慶太は私の顎をつかみ、無理やり目を合わせさせた。

「断ち切れたのか?」慶太の顔に探るような表情が浮かんだ。

私は躊躇なく頷いた。一瞬でも迷えば、この3年間の努力を無駄にしてしまう。

その夜、私は悪夢を見た。

夢の中にはたくさんの目があった。

憎しみ、嫌悪、吐き気、軽蔑......

すべて同じ人物から、慶太から......

翌日、慶太が出勤する時、私も市内まで送ってもらった。

私が彼の邪魔をしなければ、何でも話し合える。

花屋の前で求人情報を見ていた。私のような学歴のない人間を雇ってくれるだろうか。

大学を半分しか出ていないのは、慶太に施設に入れられたからだ。

「応募するの?」店主らしき人が、私がずっと求人情報を見ていて入らないのを不思議に思ったのか、声をかけてきた。

私は頷いた。

店主は25歳くらいに見えた。

親しみやすそうな人だった。

給料は月3万円で、学歴は不問。毎日定時に来て手伝えばいいだけだった。

店主に1万円前借りした。お金がなければ何もできない。

明日から正式に勤務開始だ。店主は1万円を持って逃げるとは思っていないようだ。

中古車店で中古の電動自転車を買った。

4000円かかった。

以前なら4000円など眼中になかったが、今ではこの4000円も値切って手に入れた。

私にも両親はいる。3年前の件で、家族は会社と家の名誉を守るため、私を見捨てた。

唯一私を可愛がってくれた祖父も、もうこの世にいない。

祖父がまだ生きていたら、私はこんな目に遭わなかっただろうか。

首を振って、そんな無駄な考えを振り払った。

電動自転車に乗って、祖父が残してくれた古い家に戻った。

家の周りの雑草は、慶太が誰かに頼んで刈り取ってあった。

中はほこりとクモの巣だらけだった。

4時間かけて家を片付けたが、中の物の多くはもう使えなかった。

使えないものを外に運び出そうとして、不注意で転んでしまった。物が散乱し、私は惨めな姿になった。

膝をぶつけただけでなく、全身ほこりまみれになってしまった。

目の前に革靴が現れた。顔を上げなくても誰だかわかった。

ゆっくりと立ち上がると、膝に痛みを感じた。

「佐藤さん、何かご用でしょうか」私は彼のことを「慶太」から「佐藤慶太」、そして「佐藤さん」と呼ぶようになった。

距離を置くほうがいい。あの場所に二度と行きたくない。

「おばあさんが様子を見てこいと」慶太は眉をひそめて言った。

「おばあさまに伝えてください。私は今とても元気です。心配しないでと」言い終わると、私はしゃがみ込んで、散らばった物を拾い始めた。

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