夫は私の心臓を彼の思う人にあげた

第1話

私は、夫の手によって殺されることなど、考えたこともなかった。彼が私を殺すことで、彼の思う人である鈴木えりを救うためだとは、私もまったく思いもしなかった。一時間前、鈴木えりから彼に電話をかけて、声を詰まらせて泣いた。「佐月さん、医者が私の心臓がもう長くは持たないと言いました。私はまだ若いのに、死にたくないの！」佐月陸は彼女を静かになだめ、私に対する態度よりも優しく言った。「怖がらないで、俺がいるよ」彼は一本、また一本とタバコを吸った。その後、私が事故で救急室に運ばれた後、彼は麻酔薬の投与量をいじっていた。私は鈴木えりと同じくO型であり、早くも遺体器官の寄付志願者として登録している。私が死ねば、鈴木えりは私の心臓を使って生き続けることができる。私の魂は肉体を離れ、医者が私の死を告げるのを聞いていた。そして、メスに胸が切り開かれ、彼は私の心臓を取り出した。明らかにもう死んでいるが、その痛みは魂に伝わり、私は我慢できずに苦しみながらうめき声を上げた。「陸、痛いなぁ……」私は何度も佐月陸の名前を叫んでいた。しかし、彼は聞こえなかった。手術用のドレープで私の顔が覆われ、彼は私が死んでいることさえ知らなかった。手術は順調に進行した。鈴木えりは目が覚めた後、異常な反応もほとんど見られなかった。佐月陸は微笑みながら彼女を抱きしめた。「えりちゃんが新しい生を手に入れたことを祝おう。この心臓は元々君のものだ！」「あなたは私を救うために他人の心臓を奪っちゃって、もしあのろう者がこのことを知ったら、あなたと喧嘩しちゃうんですよね？」ろう者というのは私のことで、私は両耳とも聞こえない。常に人工内耳を付けていた。「彼女のことは触れないことにしよう、約束してくれたじゃないか」佐月陸は眉をひそめ、私の話をするだけで不運になるかのように。鈴木えりを寝つかせて、彼は廊下に行って私に電話をかけた。私の携帯は電源を切っていたが、彼はそれを気にも留めなかった。ただ無念そうに微笑みながら「最近はよく起こるようになったな。些細なことでこんなに大騒ぎするなんて」と呟いた。私たちは知り合ってから今まで、一度だけ喧嘩をした。それは1ヶ月前のことだった。私は偶然で、彼が心に思い続けている人は、学生時代に私をいじめた人だと知...