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第61話

音のする方に向かって、私は足音を立てないようにそっと近づいた。

今日はこの靴を履いてきて本当によかったと思いながら、もしあの二人に見つかったら、きっと殴られるだろうと思った。

薔薇の壁の右側中央部分には、小さな花廊が凹んでいて、深さは十数メートルあり、奥には使われていない小さな小屋があった。聞いたところによると、農経系の倉庫らしい。

その二人は花廊の奥に隠れていて、互いにしっかりと抱き合い、夢中でキスをしていた。男性の大きな手が上下に動き、女性の手が男性のシャツの裾を引き上げていた。

雰囲気は非常に熱く、秋の夜風さえもその熱気に包まれていた。

大学院の照明はまだ消えていなかったので、その薄明かりに照らされて、私はようやくその人の顔が見えた。すると、私は驚いて冷や汗が出て、声を上げそうになった。

なんと明日香だった!

彼女は白いシャツを着た男の学生と抱き合い、情熱的にキスをしていた。その情熱から見れば、この後何が起こるかは想像に難くなく、きっとその場での情事の実演になるだろう。

私は自分の口をしっかりと押さえて、うっかり声を出してしまわないようにしていた。この二人に気づかれたらどうしようもないことになるからだ。

私はショックでその場を飛び出し、急いで大学院の門を駆け抜けた。結局、明日香とその男がどういう関係なのか、彼らがいつからそうなったのか、考える暇もなかった。

もし彼らが最近知り合ったばかりなら、明日香は本当に誰にでも愛情を注ぐタイプなのだろう。拓海を簡単に惹きつけ、彼を夢中にさせているのも無理はない。

しかし、彼らの断続的な囁きや抱き合う自然な仕草を見ていると、久しぶりに再会したような渇望を感じた。それに、彼らはまるで以前から知り合いだったように見えた。

もし知り合いなら、明日香が桜華大学に来た目的は他にあるのかもしれない。拓海はそのことを知っているのだろうか?

私は心が重くなった。

拓海が彼女にどれだけ甘やかし、どれだけ許してきたかを思い出し、拓海が彼女のためにどれだけ私を困らせ、危険にさらしてきたかを思い出した。彼が彼女と一緒にいるために叔父さんや叔母さんとどれだけ戦ったか、彼が「彼女と結婚するしかない」と誓った言葉も思い出した。

もし今日のこの場面を見たのが私ではなく、彼女を宝物のように大切にしている拓海だったら、彼はどんな気
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