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第214話

事情がここまでこじれたので、由佳は会社で山口清次とできるだけ距離を置くようにしていた。しかし、山口清次はまるで何もなかったかのように、由佳に自分のオフィスで一緒に食事をするように言った。

由佳がソファに座り、自分の好きな料理が並んでいるのを見ていると、山口清次が丁寧に箸や食器を準備している様子を見て、急に心の中で一つの衝動が湧き上がった。彼らには公開の可能性がまだ残されているのだろうか?

しかし、その言葉を口に出す前に、山口清次が自ら話し始めた。「由佳、ネット上のことについて考えたんだ。実は、僕たちの関係を公表することも考えたんだけど、公表すると矛先が加波さんに向いてしまう。そうなると彼女は業界で立ち位置を失い、場合によっては名誉を失うことになる。そして世間の反応も収まらず、ますます激しくなってしまうから、コントロールが効かなくなるかもしれない…」

「もう言わなくていい。分かってるから」

口の中の料理が突然味気なく感じられ、まるでワックスを噛んでいるようで、食べるのが難しかった。

その瞬間、由佳の心に突然思い浮かんだのは、彼を一体何が好きなのかという疑問だった。

屈辱や騙されることを好んでいるのだろうか?

彼に対してほんの少し期待していた自分が、哀れに思えた。

オフィスの中が静まり返った。

山口清次は唇を噛み締め、何かを言おうとしたが、黙って眉をひそめ、箸を置いて洗面所に立ち上がった。

その時、テーブルに置かれた携帯電話が鳴り始めた。

由佳はそれを取ろうとしたが、何かを思い出して手を引っ込め、そのまま聞こえなかったふりをした。

誰も電話に出なかったため、自動的に切断され、2秒後に再び鳴り始めた。何度も鳴り、3回目でようやく止まった。

山口清次が戻ってきたとき、由佳は彼を一瞥し、「誰かが電話をかけてきたけど、3回もかけてきたから、急用かもしれないよ」と言った。

山口清次はテーブルのそばに立ち、携帯電話を取り上げながら、「誰から?」と尋ねた。

由佳は外食のゴミを片付けながら、「分からない、見ていない。」と答えた。

山口清次は突然何かを思い出したようで、動きを止めて由佳を二度見した。

その日以来、彼女は彼の携帯電話に触れたことがなかった。

再び電話がかかってきた。

山口清次は画面に表示された発信者名を見て、「山本菜奈」と確認した。

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