共有

第9話

明親王は心を痛め、進言した。

「皇帝陛下、このような行いは、皇后陛下に対して少々残酷です」

しかし、藤原清は既に袖を払い立ち去っていた。その背中には威厳が溢れ、逆らうことは許されない。

風が彼の衣を揺らした。階段を下りながら、彼の視線は遠くに及び、御池庭や馬場全体を一望した。

その中には、先ほど馬を駆けた女性の姿も含まれていた。

記憶の中、少女が馬を駆ける姿もまた、同じようであった。

……

驚きの余波で、皇太后は先に麗景殿へ戻り、紫琴音は自らの弘徽殿へ戻った。

規則に従い、皇后は妃たちの挨拶を受けることになっていたが、訪れる妃はほとんどいなかった。

大半は病気を理由に、あるいは内務が忙しいとして避けていた。

紫琴音も彼女たちと無理に交流する気はなく、訪れた数名を適当にあしらい、彼女たちを返した。

しばらくして、皇帝の口述が伝えられた。

「皇后陛下、皇帝陛下はあなたが朝の救護で功績を立てたことをご存知で、二つの如意宝珠を賜りました。さらに、あなたにその暴れ馬の斬首を監督するよう命じました……」

香子はこの言葉を聞いて、不満が込み上げた。

監督の役目が、いつから皇后陛下に回ってきたのか?

しかも、斬る相手は妊娠した牝馬だなんて。

暴君は暴君だ。本当に残酷で理不尽だ!

紫琴音は淡々としており、一切の怒りや悲しみを見せなかった。

その姿に、伝言役の宮人も困惑した。

この皇后は、本当に我慢強いものだ。

一体、どこまで平然としていられるのか!

午後。

馬場。

掌事はその牝馬を馬房から連れ出し、処刑の準備を整えた。

彼らもまた馬を愛する者であり、紫琴音に嘆願した。

「陛下、どうか命令を撤回していただけませんか?この馬は戦場にも出た良馬なのです!」

紫琴音は手綱を握りしめ、手のひらで馬腹を軽く撫でた。

彼女の眼差しは静かで、馬と視線を交わした。

その後、彼女は淡々と口を開いた。

「斬れ」

執行人が馬を首切り台の下に引き寄せ、長い綱を断ち切れば、上から首切り台の刃が落ち、馬を二つにする手はずであった。

紫琴音は監督の位置に座り、数丈離れた場所にいた。

彼女の美しい目は冷たく、何の感情も見せなかった。情け容赦ないその姿は、執行人よりも冷酷であった。

しかし、刃が落ちようとしたその時、馬を牽いていた宮人の手首が突然しびれた。

彼が綱を放した瞬間、馬は前脚を上げ、急速に駆け出した。

執行人と侍衛たちは驚愕した。

「早く止めろ!」

紫琴音は静かに見守り、まるで他人事のようであった。

しかし香子は、さっき陛下が石を使い、暗器として宮人の手首を打ったことで、馬が逃げる機会を与えたのを確かに見ていた。その後、陛下は侍衛たちを密かに攻撃し、彼らが地面の石につまずいたように見せかけたのだ。

彼らはもとより千里馬に追いつけるはずもなく、ただその姿が遠ざかり、馬場の林の中に消えていくのを目の当たりにするしかなかった……

書房。

光と影が重なり合い、御座に座る男の周囲に降り注いでいた。

彼の冷徹な眉目には、濃い寒気が漂っていた。

袍に描かれた龍の鋭い爪は恐ろしげで、威厳に満ちた目つきをしている。

しかし、それでも男の眼差しの方が一層威圧的で、人々は直視することができなかった。

侍衛たちは地面に跪いていた。

「皇帝陛下……馬が、御林を抜け出し、もう……もう行方不明になりました……」

御座に座る皇帝は一言も発しなかったが、その鋭い視線は彼らを氷上に歩かせているかのように感じさせた。

さらに宮人が入ってきて報告した。

「皇帝陛下、皇后陛下が外で罪をお詫びしております!」

ついに皇帝が口を開いた。

「皇后は監督を怠ったため、俸給を一年間罰する。他の者は、職を剥奪し、宮中から追放せ」

宮人が殿外で伝言に行き、戻って皇帝に報告した。

「皇帝陛下、皇后陛下は、 君恩に感謝するとおっしゃいました」

その後、殿内の雰囲気は一層恐ろしくなった。

ただ、もともと座っていた皇帝が立ち上がるのが見えた。

その高い影は、まるで巨大な網のように下の者たちを覆い隠し、誰一人として息をつくこともできなかった。

「皇后、よくやった」

皇帝の心は測り難い。

彼が「よくやった」と言っても、それが本当に褒めているとは限らない。

麗景殿、皇太后は皇后に対して不公平だと感じていた。

「皇后は宮中に入ったばかりで、上下の調整が必要だ。皇帝は彼女の俸給を罰して、どうやって統治しろというのか!」

たとえ皇太后であっても、皇帝の命令を変えることはできなかった。

凌霄殿。

「皇貴妃様、皇后陛下は昨日結婚されたばかりなのに、今日もう罰を受けました!」

皇貴妃は冷静な態度を保ち、皇后がこのような待遇を受けることを既に予期していた。

皇帝は好かない女性に対して、常に冷酷であった。

翌日。

紫琴音が麗景殿へ向かう途中、一人の白衣を着た男に出会った。

彼女はすぐにその人物が、大婚の日に皇帝の代わりに礼を行った明親王だと認識した。

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status