第8話

今日は11月15日だったはず。私は目を開け、スマホのカレンダーを確認した。

目が覚めると、白いドクターコートを着た医者がそばに立っていた。彼の名前は中川颯太、私の先輩であり、主治医でもある。

もう一人の男......彼は今、前に立っていて、怒りを隠そうとしていなかった。

「倒れたフリをするなんて、いつからそんな芝居ができるようになったんだ、美咲」

頭が一瞬ズキッと痛み、この男が誰かを思い出した。

「婚約したんじゃなかったの？何しに来たの？」

翔一は笑いながら、質問には答えずに言った。「お前をここに連れてきた後、最近この男に会いに来てるって聞いたよ」

「2年間お前がいなくなった時、どうやって過ごしてたのか気になってたけど、今ならその答えがわかるよ」

彼は颯太の方へ歩み寄り、冷たい視線を投げかけた。「残念だな、お前じゃ無理だったんだな。2年間もかけて何もできなかったんだから」

「結局、俺の方が勝ったってことだな」

そのあからさまな侮辱に胸が締めつけられ、私は枕を掴んで彼に向かって投げつけた。「出て行け！今すぐ出て行け！」

翔一は避けもせず、枕をまともに受け止めた。

颯太は私たちの間に立ち、「鷹山さん、これ以上患者を刺激するなら、警備員を呼んであなたを追い出しますよ」と言った。

翔一は冷ややかな目で私たちを見つめ、数秒間黙っていたが、やがて無言で病室を出て行った。ドアが閉まる音は耳をつんざくようだった。

私は頭を抱え、しばらく動けなかった。

颯太は心配そうに私を見て言った。「安心して、彼には何もわかってないよ。ただ、疲れが原因で倒れただけだと思ってるさ」

「でも、美咲、本当に彼に2年前の真実や病気のことを話さないつもりか？」

「話す必要はないよ。どうせ、あと数日もすれば、自分のことも全部忘れちゃうだろうから」

実は、大したことじゃない。2年前、翔一が失明して最初の月に、私は希少な病気だと診断された。

世界的な発症率は5%未満。この病気にかかると、8年以内にすべての記憶が失われ、最終的には昏睡状態に陥り、植物人間のようになること。

両親も早くに亡くなり、頼る人がいない。私のことなんて誰も気にしないだろう。

でも、翔一だけは違う。彼は悲しむだろう。私はそれが耐えられなかった。

彼は大きな苦しみを経験したばかりだったのに、このことまで