第3話

翔一は私を見つめ、作り笑いを浮かべながら冷たく言った。「どんな契約だ？」

「金か？それとも家か？ずっと気取っていたが、ついに我慢できなくなって金を要求し始めたか？」

その皮肉には慣れていたし、彼の言う通り、この契約の本質は金だった。

「問題ない、お前の要求は飲んでやる。ただし、条件があるぞ。紗江子に謝れ」

翔一は、私が彼を捨てたことを今でも根に持っていて、私を侮辱できるチャンスを逃すわけがなかった。

私の両手は徐々に拳を握りしめた。「本当に彼女をいじめたと思ってるの？」

「そんなことはどうでもいい。今、求めているのは、お前が謝ることだ。謝るか、謝らないか？」

翔一はただ私を辱め、紗江子を喜ばせたいだけだった。

目の奥が乾いて痛み、頭に浮かんだのは高校時代の翔一が私を守るために、私をいじめた人たちに立ち向かった光景だった。

あの頃の彼は、今の鷹山社長とは程遠い存在だった。同級生たちに殴られ鼻血を出しても、彼は私を後ろに庇いながら「美咲に謝れ」と言っていた。

異なる時代の翔一の姿が私の前で重なり合い、またすぐに離れていった。

私は我に返り、冷たく笑ってから、紗江子の前に歩み寄った。「すみませんでした、佐藤さん。鷹山社長がいない間に水をかけてしまって」

紗江子はわざとらしく髪をかき上げ、「口先だけの謝罪には誠意が感じられないわ」

「じゃあ、紗江子はどんな謝罪が誠意を感じられると思うの？それなら......」

翔一は彼女の肩を抱き、水の入ったコップを差し出しながら言った。「同じ方法で返すのはどうだ？」

彼の意図は明白だった。紗江子はそのコップを受け取り、口元に笑みを浮かべながら、私の顔に水をぶっかけた。

その水はもう冷たくなっていて、顔にかかった瞬間、暖房がついている部屋でも、骨まで冷えた。

私は冷静な顔で、表情を変えず、彼女のように狼狽することもなかった。

紗江子は不満げに言った。「なんだか彼女、楽しんでるみたいじゃない？」

「そうか？」翔一は私の顔を見つめながらも、紗江子に話しかけた。「満足しないなら、もっと何杯かかけてもいいぞ」

この数年間、私を弄ぶことが彼と彼の恋人たちの遊びの一環となっていた。

彼らのためにコンドームを買い、後始末をし、婦人科に付き添ったり、私がやっていないことなんてなかった。

水をかけられることなんて、大したことじゃなかった。黙って受け入れた。

紗江子は私があまりに従順で、急にいじめる興味を失った。そして、翔一の腕に身を寄せ、囁くように言った。「もう無視しましょう。私、新しい下着を買ったの、オフィスで見せてあげようか？」

翔一は微笑みながらうなずき、彼女の額に軽くキスをした後、私を見つめ、「契約書を置いていけ。お前はもう出て行っていい」

私はうなずき、書類を手に取り、静かにその場を後にした。

頭がズキズキと痛み始めた。これも病気の症状の一つで、これからもっと酷くなるだろう。

翔一、もう契約にサインしてもらう必要はない。

ただ、少しだけ気になったのは、もしも本当に君のことを忘れてしまった時、ほんの少しでも後悔するのだろうか？