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第10話

うるさいな、何か言い争っている声が聞こえた。

昏睡状態だったが、やっと目を開けると、目の前で二人の見た目のいい男たちが殴り合っていた。

彼らの顔には傷があり、警備員が二人を引き離しながら、慎重に「落ち着いてください、話し合いましょう」と宥めていた。

私は体を起こし、白いドクターコートを着た男を見つめ、手を伸ばして彼を呼んだ。

だが、それとは逆にスーツ姿の男が突然激しく感情を爆発させ、ベッドの前で膝をつき、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔になっていた。「美咲ちゃん、俺のこと覚えてる?」

美咲ちゃん?

誰がそんな呼び方をするんだ。

私は眉をひそめ、彼に握られていた手を引っ込めた。

「誰なの?」

「あんたのことなんて知らないけど」

「この人は先輩の知り合いのか?」

私は少しぼんやりとしていて、頭の中が混乱していた。

颯太が慌てて歩み寄り、顔が少し青ざめていた。「美咲、本当に彼のことを覚えていないのか?」

私はまばたきをし、少し考えてみたが、本当に思い出せなかった。

すると、翔一が突然声を張り上げた。「颯太、お前の仕業だな。美咲を忘れさせたのはお前だろう。全部お前が仕組んだんだ!」

「ふざけるな。美咲を追い詰めたのはお前だろう。彼女の意志を無視して辱め、他の女と婚約し、大事なものを奪い取った。お前を忘れたくて仕方なかったんだ。お前から解放されないと、生きていけなかったんだ」

「ふざけんな!」

二人は再び取っ組み合いになり、まるで野獣のように相手を殺す勢いで殴り合い始めた。

その日、翔一と颯太は二人とも警察に連行された。

颯太は翔一と個別に話をしたが、何を話したのかは分からなかった。ただ、その後も翔一は毎日病室に来て、過去の話を語り続けた。

「このマフラーはお前が編んでくれたものだよ。手先が不器用で、編むのに一ヶ月もかかったんだ」

「これ、見て、卒業写真だよ。お前は俺の隣に立っていたんだ。学校時代からずっと一緒だったんだ。担任の先生も、俺たちの関係を認めてくれてたんだよ」

私は翔一を不思議そうに見つめたが、全く記憶になかった。

「大丈夫だよ、きっと思い出すさ」

彼はつぶやくように言った。それが私に向けた言葉なのか、自分に言い聞かせているのかは分からなかった。

でも、病気というのは、希望だけで治るものではなかった。

翔一は寝ずに病室
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